第6話将来の夢(side 伊織)

 あの時のことを考えると、原因はもうわかっていた。

 僕は出会ってしまったからだろう。

 運命の番であるアルファ、獅子堂司に。

 その運命の番が獅子堂学園にいると分かっていても進学を決めた理由の一つは、もう入学手続きを済ましてしまっていたこともある。

 しかし、理由はもう一つあった。

 僕は研究者になりたいのだ。両親の件もあって、バース性に関連する研究をしたいとずっと考えていたのだ。

 この学園にはバース性研究科という他の学校にはない学科が存在している。その学科では、一般的に使用されているオメガやアルファのための発情抑制剤などを学生によって完成させたことが有名で、当時は世界的にも話題として取り上げられたのだ。僕はそのニュースを見て、この学園に入学することを決意したのだ。

 だが、僕が研究したいのは発情抑制剤に関することではない。運命の番に関しての研究だ。

 僕の両親は「運命の番」によって人生が狂わされた。だから運命の番という忌々しい存在は大嫌いだし、遺伝子的な運命によってその人の一生が決められるなんて絶対嫌だからだ。現に僕は自分の運命の相手を知ってしまっている上に、写真を見ただけでも発情させられてしまっているのだ。生徒会による定例会に出席しなければ出会うことはないが、いつこの学園内で出くわしてしまうかわからない。いつまでも逃げ切れるとは限らないのだ。

 僕は彼に出会ってしまうことが本当に怖い。もし本人に出会ってしまえば、自分がどうなるのか、どんな行動を取ってしまうのかもわからないから怖いのだ。

 だから僕は運命に抗えるような、惑わされないような発情安定剤をこの学園で完成させたいと考えている。その錠剤を定期的に飲むことで、運命の番であってもなくても、お互いが人柄を知って、恋をして、一生に一度の大事な番として幸せになってほしいのだ。かつて僕の両親がアルファ・ベータでも愛し合った時ように。

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