第8話〜スキル・なし〜


「……一体、何があったんだ……?」


 その若い男は周りを見渡す。そして突然右手を上げ、叫んだ。


「……ケスカロールの街が、元通りに復活し!」


 フォン。

 <スキルが使用されました>


 男の近くに、謎の文字が浮かぶ。

 その直後だった。

 辺りが黄金色の光な包まれたと思うと、その光は門や建物、街路樹の形に変わっていく。

 光が晴れると、目の前には完全に元通りになったケスカロールの街があった。


「おい、何だよ、どうなってるんだコレは!」

「すげえな、一瞬で街が元通りに……。ゴマ、ひとまずシャロールって子の家へ戻るぜ!」


 訳もわからねえまま、ボクとソアラはシャロールの家へダッシュした。窓から、シャロールのいる部屋へと飛び込む。

 そこではスライムどもが、喜んでプルプルと飛び跳ねていた。


「あ、おかえり、ゴマくんにソアラくん」

「兄ちゃんたち、おかえりなさい」


 何匹ものスライムを体にくっつけたままのシャロールとルナが、ボクらを出迎えた。

 ボクはシャロールに尋ねた。


「シャロール、あそこにいる男知ってるか? アイツ、何か一言叫んだと思ったら、一瞬で街を元通りにしやがった。何なんだアイツは?」


「あれは……佐藤!」


「佐藤だと⁉︎」


 佐藤……!

 アイツが、シャロールの旦那で伝説の勇者の、佐藤か! 見た目は、ただの10代くらいのニンゲンの男だ。

 しかし、何なんだあの奇術は。一瞬で街が復活したのを、ボクは確かに目の当たりにした。魔法でもねえ。確か佐藤の近くの空間には、スキルとか表示されてたな。シャロールの持つスキルが魔物と話せるのと同じように、アレが佐藤の持つスキルなのか?


 だったら、ボクの特技、〝ステータス分析〟で見てやる。

 ボクが転身している時に目を瞑れば、相手のステータスや持ち技のデータがまぶたの裏に浮かんでくるんだ。

 ボクは、こっちに向かってくる佐藤を見た後に、目を瞑ってみた。


 スキル〝なし〟Lv.999……詳細不明


 な、ボクの〝ステータス分析〟でも分からねえだと⁉︎

 確かアイツ、「街が復活し」とか言ったよな。なのにその後、街が復活した。もしかしたら、〜しと言ったことの反対のことが起こるのかも知れねえな。


 だったら、佐藤が「敵が倒れ」とか言ったら、そのまま敵はオダブツなんじゃねえのか。やべえな、アイツもある意味、最強なんじゃねえのか? 流石のボクも、そこまでのことは出来ねえぞ。


 そんなことを考えてるうちに、佐藤が玄関から入ってきた。


「ただいま、愛しのシャロール」

「佐藤〜! おかえり〜!」


 シャロールが尻尾を立てながら玄関に駆けていき、佐藤に抱きついた。お、おい。目の前でチューするなよ!

 

「この猫さんたちが、救ってくれたのよ」


 シャロールは顔を赤らめたまま、ボクとソアラを指差してそう言った。佐藤は転身したままのボクらを見たが、動揺するそぶりすら見せずに冷静に言い放った。


「……なるほど。そして街を壊してくれたのもこの猫たちか。もう少し戦法を考えた方がいいよ」


 ……チッ。初対面で早々、ダメ出しかよ。久しぶりの戦いでまだ鈍ってるんだから仕方ねえだろ……。

 ボクは言い返そうとしたが、すぐにシャロールがフォローしてくれた。


「佐藤〜、いいじゃない。ゴマくんとソアラくんがいなかったら今頃スライムあの子たち、捕まっちゃってたんだから!」

「ピー! ピー!」


 スライムたちはピーピーと鳴きながら一斉に連なって、床にハートの形を作った。そして嬉しそうに窓から出て行った。


 ♢


 散らかった部屋の片付けも終わり、シャロールと佐藤はキッチンで紅茶を飲み、ひと息つく。

 ボクとソアラは転身を解いてフツーのネコの姿になり、ルナも一緒に美味えミルクをご馳走になった。


 ソアラが声をひそめながら、ボクに話しかける。


「いやあそれにしてもよぉ、ゴマ。あのエルドラードを見たお陰で、オレは100万馬力ネコパンチを繰り出せたんだぜ。……いや、むしろアレはニライカナイだな! ゴマ、ナイスだ!」


 ボクも声をひそめて返す。


「……いや、アレはアルカディアだな」


「あるいは、不老不死が得られると言われる蓬莱ほうらい山だろ!」

「それか、シャングリラだな。あるいはエデンの園とか」

「いや、ガンダーラとでもいうべきか?」

「エリュシオンだ。いや、マグ・メルか?」

「だったら黄泉の国だ。オレたち、死んだらアソコへ行こうぜ、ゴマ!」

「そりゃいいな。よし、ソアラ。帰る前に……」

「ああ、相棒! せーの!」


「「シャロールのパンツを、もう一度拝ませてもらおう!」」


「兄ちゃん、ソアラさんも! もうその辺にしときなよ!」


 呆れたルナが止めてきたが、……手遅れだった。

 ボクらの声はしっかりと、佐藤の耳に入っていた。——ズンという足音と共に、拳を握りしめた佐藤の影が迫る。


「君たち、あんまり僕のシャロールにセクハラ紛いのことを言ってると、勇者の僕でもキレちゃうんだけど……!」


 あ……まずい。


「この猫たちは、今すぐこの場から消え去ら!」

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