【声劇台本】置いてかないで、お兄ちゃん!

雪月華月

置いてかないで、お兄ちゃん!

シーン1


SE・玄関の扉を開ける


正樹「た、ただいま・・・って、あれ、誰もいないのかよ、鍵もかけずに、さすが田舎・・・」


SE・足音


凪沙「んー、お母さん、帰ってくるの早いね、忘れ物?」


正樹「あ」


凪沙「んんっ」


正樹「もしかして、いや、もしかしなくても凪沙だよな!」


凪沙「お兄ちゃん・・・!」


正樹「めっちゃ大きくなったなっ、前会ったの、四年前だっけ・・・そうかーもう、四年かー、成長期ってすごいな」


凪沙「・・・四年も都会に染まったバカニキ、おかえり」


正樹「(いきなり凪沙の淡白な態度に)え?」


凪沙「え? って何ですか、すっかり家のことを忘れたんじゃないかと思ってましたよ・・・都会で女でもひっかけて、夢中だったんですか」


正樹「ええ・・・いや、それは・・・」


凪沙「なんで、そこで言い淀むんですか、なるほど、やっぱ男って股間と脳みそが、合体してるんですかね・・・汚い、シネ」


正樹「お前、お兄ちゃんって、お兄ちゃんって! あんなに俺のことを追っかけてたじゃないか、何だよ、いきなり、ダウナー系女子になるんじゃないよ!」


凪沙「マイナス500点です・・・過去の栄光に縋るとは」


正樹「おいおい、お前っ、凪沙・・・!」


SE・足音


凪沙「あー、お母さんも帰ってきた・・・うん、正樹のバカニキ帰ってきたよ。ああ、気分悪そうに見える? そうだね ゴミムシを見たんでね・・・気分が悪いの」


正樹「母さん、なあなあ、どうしたんだよ、凪沙がおかしくなっちまって!! ん、四年何をしてた?? ・・・社畜です・・・」


シーン2


SE・電話のコール


正樹「あ、よっす、今家着いた・・・久しぶりに帰ったけど、そんなに前と変わんない・・・いや、変わったわ、妹が俺を見下げてきた・・・あいつ、あんなんじゃなかったのに・・・ああ、うん、ブラコンだったよ、俺がどこかに行こうとするとすぐについてくるんだ・・・ちょっとでも離れようとすると、お兄ちゃん、置いてかないでって、泣きついて・・・そうだな、かわいい妹だよ・・・えー、なんだよその質問・・・そういうの、ずるいだろ、はは」


SE・ギシッと床が軋む

(盗み聞きしてる凪沙)


凪沙「(小声)バーカ・・・バカ・・・」



              間


SE・足音


正樹「縁側で、アイスっていいな」


凪沙「げ」


正樹「げって、なんだよ、はあ・・・俺、なんかした?」


凪沙「何もしてないね」


正樹「何もしてないの、なら問題・・・」


凪沙「(遮るように)ない・・・とか言ったら、スマホ焼く」


正樹「・・・勘弁してください、凪沙さん」


凪沙「母さんと、何してたの?」


正樹「あー、棚の寸胴とってくれって・・・俺が来たからって、ごちそう作るといってたよ。で、取ったら取ったで、ビールを押し付けて追い出されたけどな」


SE・缶を開ける(ビールです)


凪沙「そうなの、まあ、母さん、寂しかったんだと思う・・・なんだかんだお兄ちゃん大好きだし」


SE・シャクっとアイスをかじる音


正樹「四年も帰ってこないって、ひどいやつだよなぁ・・・電話とかは一応してたけど」


凪沙「ほんとに、そうね」


正樹「凪沙もずいぶん変わった・・・・こんなそっけなかったでしょうか・・・」


凪沙「私だって、子供じゃなくなったから」


正樹「十七で、それを言い切るとは・・・」


SE・ビールを飲む


凪沙「何、十七は子供っていうの、十八で成人なら、もうだいたい大人じゃん」


正樹「お、おう、確かに・・・いや、でも俺も大人なのかな・・・」


凪沙「二十八で子供ですとか言ったら・・・きもい、カッコわる」


正樹「まあ、確かにそうだな・・・でも迷うことも多くて、不安なこともあったりで、結構最近まで、ふらふらだったよ」


凪沙「なさけなー、昔のほうが、カッコいいとか勘弁してよ」


正樹「昔のほうが迷わなかったかも・・・な。あはは、いろんなことを知ると、判断が難しいこと増えて、まちがえてばっかりだ」


凪沙「そうなの・・・なんでそんなこと言ってるわりに、ちょっと楽しそうなの」


正樹「あー、楽しそうか、そうかも・・・な。ビールのおかげかな」


凪沙「アル中予備軍」


正樹「辛辣ー、でもなんだろ、そういう凪沙、結構いいよ、昔はストレートに言うの苦手だったし」


凪沙「あの頃は、黒歴史だから」


正樹「なるほど、確かにっ、成長したな、凪沙は。俺も成長できるといいなぁ」


凪沙「その図体で、どこを伸ばすの、横?」


正樹「そこの成長はとても悲しいぞ・・・」


シーン3


正樹「だいぶ食べたな・・・母さん、料理多すぎないー? あ・・・はい、そんなに強い思いを・・・もっと、人がいたら、もうちょい楽だったな・・・いや、なんでもないっ、えー、ちょっと、ブタになりたくないよー・・・そ、そうだな、確かに・・・歩くか・・・横に成長しないように・・・」


SE・引き戸を開ける音


凪沙「どこいくの、バカニキ」


正樹「うおおお、待ち伏せ?? 待ち伏せ? 外出たら妹が待ち伏せとか、漫画かよ」


凪沙「・・・(舌打ち)」


正樹「はい、お許しください・・・凪沙様・・・」


凪沙「今日はちょっと食べ過ぎたから、涼みに神社にいこうとしてたの」


正樹「神社って、あの、田んぼ脇の森にある?」


凪沙「うん・・・そう、あそこはちょっと涼しい」


正樹「俺も連れて行ってくれよ、あそこ、懐かしいな・・・よく遊んだとこじゃん」


凪沙「もう、ずいぶん前だけどね・・・」


SE・足音


正樹「おー、懐かしい・・・変わってないのが、逆にすごいな」


凪沙「ここは昔からボロかったから」


正樹「たしかに、ここでよく凪沙泣いてたな・・・ちょっといじめられてて、でも泣くのを我慢してて、ここで一人で泣いてたろ」


凪沙「やめてよ、今は違うし。昔話を掘り出すなんて、ジジイなの」


正樹「いつまでも、帰ってこないから、よく迎えに行ってた」


凪沙「やめってっていってるでしょ」


正樹「・・・嬉しいな」


凪沙「え?」


正樹「お前が成長してすげー、嬉しい・・・」


凪沙「可愛げないのに? 暴言ばっか吐いてるのに?」


正樹「まあ、そこは、ぐさっとくるけど・・・家族として、凪沙の成長は、嬉しい」


凪沙「ほんと嬉しそう」


正樹「これでも、ちょっと寂しいんだぞ? お前の手をひっぱって帰ってたんだけどなあって・・・しみじみしちまうよ」


凪沙「あんたは、歩くのが早かったよね・・・ずんずん行っちゃうの」


正樹「(凪沙に手を握られ)そ、うだな・・・おいおいずいぶん強く握ってくるな」


凪沙「ずっとそばにいたのに、上京しちゃって・・・四年も帰ってこなくて、返ってくるのも唐突・・・」


正樹「返す言葉もないな・・・」


凪沙「バーカ・・・バカ、お兄ちゃんのバカ・・・」


正樹「なんだ、昔と、何一つ変わってないじゃん」


凪沙「うー、うるさい」


正樹「泣きそうになるな、お兄ちゃん、そんな顔をされたら、苦しくなるよ」


凪沙「だって、だって」


SE・電話のコール


正樹「っ、誰だ・・・ああ、初音か・・・体調報告ありがと、今、おれ? ごめん、取り込み中・・・ちゃんと寝るんだぞ、またな」


SE・電話を切る


凪沙「今の電話、誰、お兄ちゃん・・・」


正樹「え、ああー・・・たいしたもんじゃないよ」


凪沙「うそ、ごまかさないで、誰なの」


正樹「(ため息つきながら)俺のカノジョ・・・体調崩して、律儀なもんでさ、定期的に報告してくれるんだ、あと、俺の様子が気になるんだろうなぁ」


凪沙「・・・すごく、優しい声だったね、とても大事そうな・・・」


正樹「まあ、そうだな・・・わかるんだな、そういうの」


凪沙「ほんとに、ただのカノジョなの・・・」


正樹「・・・ただのカノジョと思ってはないな、将来の家族と思ってる・・・今回の帰省でも連れてこようとしてて、母さんには言ってた。・・・母さん、気合をいれてごちそうの下準備してたみたいだけど」


凪沙「(遮るように)・・・ライ」


正樹「え? 凪沙?」


凪沙「キライだよ・・・! 勝手に都会にでて、そこの女と家族になりますって、私をほっぽりだしたくせにっ」


正樹「凪沙、俺はお前をほっぽりだしてなんか」


凪沙「結果的にしてるよ、バカ、バカバカ、死ね!!!」


SE・走る音


正樹「ちょっ、凪沙、どこに、どこにいくんだ・・・!」


シーン4


SE・ドアを叩く


正樹「凪沙、いるんだろ、凪沙」


凪沙「いません」


正樹「いるじゃないか」


凪沙「いませんっ!」


正樹「そうか・・・でも話したいんだ、凪沙」


凪沙「何を話すっていうのよ・・・この裏切り者」


正樹「だいぶ嫌われちまったな・・・自業自得なんだけど・・・」


凪沙「(無愛想に)・・・カノジョをつれてくるなんて、それって私達に、結婚するって言うためだったの?」


正樹「・・・いや違う」


凪沙「違う? じゃあ、ホント顔を合わせるだけ?」


正樹「ああ・・・本当に結婚できるかどうか、わかんないんだ・・・カノジョ、いや初音は、あれこれありすぎて、家庭というものにいいイメージがない。プロポーズもしたけど、断られてる」


凪沙「なにそれ・・・そんな人を、将来の家族にしたいの。プロポーズも断られているのに」


正樹「そうだな、したい・・・一緒に人生を歩みたい」


凪沙「(独り言のように)なにそれ、愛じゃん」


正樹「初音に、俺の家族を紹介したかったんだ。一緒にごはんを食べてもらいたかった・・・縁側で、凪沙と俺、しゃべったろ・・・あの中に、初音もいたらって・・・」


凪沙「私は、その人と関係ないじゃん・・・いくら、お兄ちゃんの恋人でも」


正樹「そうだな、なんだろ、ただ・・・俺の家族はイイぞって、知ってほしかった。俺の家族って、自分でいうのもなんだけど、いい人ばかりなんだっ、そして初音も良いヤツなんだって、お互いに知ってほしかった」


SE・ドアを開ける


凪沙「部屋、入って・・・なに、その顔、情けない顔しないでよ、バカ」


正樹「お前だって、また泣きそうじゃん」


凪沙「そんなことない、そんなことないから」


正樹「そうか、凪沙は強い子だな・・・」


凪沙「っ、お兄ちゃんはさ、私のこと、どう思っているの」


正樹「そんな、大事に決まっているだろ・・・大事な妹だ」


(幼少時の)凪沙「お兄ちゃんっ、置いてかないで」


正樹「今、急に凪沙が俺を呼ぶ時を思い出したよ・・・昔、よく言ってたよな、お兄ちゃん、置いてかないでって」


凪沙「そうだね、お兄ちゃん、足が速いから・・・いつも、置いてけぼりになりそうだった」


正樹「凪沙、置いてけぼりになりそうになると、よく泣きそうになるから、なんども頭をなでたな、置いていかないって・・・」


凪沙「お兄ちゃんはいつも、そう言ってたのに」


正樹「寂しかったんだな・・・ごめんよ、凪沙。お前を置いていってしまって、ごめん・・・待たせたな」


凪沙「(嗚咽もらしながら)ホントだよ、ホント、勝手に大人にならないでよ、バカ、バカ。お兄ちゃん、寂しかった、お兄ちゃん、置いてかないで、凪沙を置いてかないでっ・・・」


正樹「ごめんな、凪沙・・・ごめん」


凪沙「っ、あぁっ・・・お兄ちゃん・・・・」(泣き声)


シーン5


SE・風鈴


正樹「な、凪沙さん・・・どうしてそんなにむくれているのでしょうか」


凪沙「だって・・・行っちゃうんでしょ、都会ってやつにー」


正樹「仕事もあるしなぁ」


凪沙「爆発しちゃえばいいのに・・・」


正樹「過激派すぎるだろ・・・大丈夫だよ、凪沙、また帰ってくるから、そんなに遠くないうちに」


凪沙「ほんとにー? ほんとにー?」


正樹「嘘ついたら、今度こそ、お前に嫌われるからなぁ・・・お兄ちゃん、それは辛い」


凪沙「ふん、信じていいんだか・・・まあ・・・待ってる、待ってあげる!」


正樹「ありがと・・・さて、ちょっと出かけるかな」


凪沙「どこ行くの」


正樹「ちょっと、ちょっとどころじゃない距離だけど、コンビニ」


凪沙「・・・行ってらっしゃい」


正樹「(笑いながら)凪沙も行こう、アイスくらいなら買ってやるぞ」


凪沙「う、うん・・・仕方ないなぁ、お兄ちゃん、一緒に行ってあげる」


SE・足音(遠ざかりながら)

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