変なやつ

是旨想

変なやつ

小学生の頃変なやつがいた。

「お前変だな」と言うと。「変だと思われるのは嬉しい。」とやつは答える。

いじられて喜んだり。わざと転んだり。突然笑いだしたり。

思い出しても思い出しても変なやつ武勇伝は止まらない。

ちょっと怖いレベルだった。

そんな変なやつは、ある日突然姿を消した。理由は親の転勤だそうだ。

決して友達だと思っていた訳では無いけど、変わり者がいなくなるというのは少しだけ心に空間できた感じがする。

そして9年後の今

20歳になった俺は、成人式の二次会で変なやつと9年振りの再会を果たしている。

やつは俺を覚えているだろうか。

俺はやつに近づいた。やつは微笑んだ。

「久しぶり。」

「久しぶり。覚えてる?」

「覚えているよ。」

「一つだけ聞いてもいいか?」

「いいよ」

「なぜ君は小学生の頃変だと思われるのが嬉しかったんだ?」

「僕は変わらない。ずっと変だと思われるのは嬉しいよ。」

答えになっていない。やっぱりこいつは変だ。いや、もう頭がおかしいのか。

頭と顔を捻っていると。

「ごめん。ふざけた。ちゃんと答えるよ。」

やっぱりやつは変だ。

「僕1人は嫌なんだ。常に誰かに近くにいて欲しい。誰かが近くにいないとダメなんだ。」

「ひとりが苦手なのか?」

「そう。でも僕は本性を出して友達を作れる自信が本当になかった。そこで思いついた変人作戦。」

「なんだそのネーミングセンス」

やばい。声に出てしまった。

「ははっそうだね。でもこれは子供なりに考えた結果。変だなって思われてる時は僕にみんな夢中だ。嬉しいんだ。ひとりじゃない。友達じゃなくとも構ってくれる人がいる。」

「別に君が本性を出しても友達は絶対に作れると思うけどな。」

「僕は常に下を向いて歩いてきた。何事も前向きに捉えられない。そんなやつ一緒にいて楽しくないだろ?その絶対って根拠どこから来る?」

息が詰まった。無責任な発言だったかもしれない。

「でも僕は今楽しいよ。小学生の頃があったからこそ今この二次会に呼ばれ、きみと9年振りに話してる。」

やつは手に持ったお酒を一気に飲んだ。

「ありがとう。9年前の自分。ありがとう。話しかけてくれて。」

「お、おう。」

やつは帰る支度を始めた。

「やっぱり友達は欲しいかもな。」

どこか寂しげな表情を浮かべ、やつは俺に背を向けた。何人かにもう帰るのかと話しかけられる。俺はいつの間にか追いかけていた。

「なぁ。」

やつは振り返る。

「俺は、俺は君と友達になれるよ。友達になりたいと思える。小学生の頃は気づけなかったけど、君はとても素敵な人間だよ。」

やつは笑った。

「俺と友達なってくれないか。」

やつは1歩1歩近づいてくる。

「嬉しい。ありがとう。次会った時も同じことを言ってくれる? 」

一瞬混乱した。でも心ではわかっていた。

「おう。何回でも何度でも俺は君に言う。」

「そっか。ありがとう本当に。次会えるのを楽しみにしてるよ。」

やつはまた振り返って歩き始めた。

3m歩いたあたりからスキップをしている。

これから何度思うだろうか。

「変なやつだな」と。

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