4#僕を本当に愛してくれるもの

 「あいつ、バルーンショップの前で何見てるんだ?」


 ずっとモテモテの野良ラグドール猫をつけてきた地域猫のブッチィーとトラジは、街の建物の陰に隠れて、バルーンショップのショーウィンドウをじっと見詰めるラグドール猫を監視していた。


 「奴が恋する相手って何だ?」


 「それは、あのバルーンショップに居る。」




 今、ブッチィーとトラジの目の前である『奇跡』が起きようとしていた。




 ガチャっ。



 「あら、まあこのニャンちゃん来ているのね。」


 入り口の扉を開けたバルーンショップの女性の店員は、1匹のうす汚れたラグドール猫が店のショーウィンドウを見詰めているのを見付けた。


 「君、本当に風船が好きなのね。来て、ここには風船がいっぱいあるから!!」


 店員は、野良のラグドール猫を抱いてバルーンショップの中に案内した。


 「ニャンちゃん!!くれぐれも爪たてて風船を割らないでね。これは全部売り物なんだから。」


 野良ラグドール猫は、店に並べられたいろんな種類の風船をキョロキョロと見渡した。


 野良ラグドール猫の目当てはひとつだけだった。




 ・・・僕のフィアンセの風船の猫・・・!!



 しかし、何処を見渡しても愛する風船の猫は見あたらなかった。


 何処に?!何処に居るんだよ!?


 ・・・あった・・・!!


 ラグドール猫は、愛する風船猫をやっと見付けて目の色を変えて駆け寄ったが・・・


 元気が無い・・・


 愛する風船猫は居たは居た。


 しかし、中のヘリウムガスが抜けて萎んで半ば何とか浮いている状態だったのだ。


 ・・・どうしちゃったんだよ・・・だから居なくなっちゃったんだ・・・


 ラグドール猫は「にゃ~ん・・・」と寂しい声で鳴いた。


 「あら、この風船。確かずっと君は見てたよね。きっとお気に入りだったのね。

 まだ買い手が無いから、君にあげるよ。」


 店員はそう言うと、元気の無い猫の風船の吹き口にボンベからヘリウムガスをぷぅ~~!!と注入した。


 ラグドール猫の愛する猫の風船は、みるみるうちにパンパンに膨らみ、元の元気な姿に戻った。


 「はいっ!!この猫の風船は君のものよ!!

 あっ!そうそう。君は野良猫でしょ?今日から君はうちの猫にならない?

 君をこのバルーンショップの看板猫になるのよ!!」


 ラグドール猫はその店員の優しい目を見たとたん、不可解に前の飼い主捨てられてから過酷なだった日々がここで終わった事に気付き、一筋の涙が溢れた。


 そう。この風船の猫は、この野良のラグドール猫を本当の幸せを引き寄せた、本当の恋する猫だったのだ!!




 「そっか、あのイケメン猫はこの風船屋の猫に・・・イイハナシだな。」


 「そしてあのイケメン猫は猫の風船に恋していたとな。」


 いつの間にバルーンショップの中に入りこんでいた地域猫のブッチィーとトラジは、思わず貰い泣きしていた。


 「じゃあ、俺はこの黄色いゴム風船に恋をしよ・・・」 



 プスッ。



 「あっ!爪!」



 パァーーーーーーーン!!


 つい感動の余り、売り物の風船を抱き締め割ってビックリしたトラジとブッチィーは、慌ててバルーンショップの外へ逃げていった。


 「ほら、くすねてきた。萎んだ風船。」


 「あの公園でこの風船で膨らませて遊ぼうぜ。

 って、モテない俺達は一生お互いがコイビト同士だな。」 


 「って、君何いってんだ?」

 


 



 ~僕はこれに恋している~


 ~fin~

 


 

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僕はこれに恋してる アほリ @ahori1970

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