えっ、バトル展開?

 木造の階段がギシギシと音が鳴る。ろくに手入れもされていない空き家で、4人で上っているんだから当たり前だろう。しかも俺は人一倍重さがある。いつ底が抜けてもおかしくない。


「うええええええ……」


 多分そのことを怯えているリリカに伝えたら気絶くらいしそうだから言わないけど。


「真っ暗ってこともあって長く感じちゃいますね」


「そうだな」


 頭をなでながらシーニャが言う。それだけじゃないけどな。リリカに歩調を合わせているから遅いんだよ。


 と、そんな感じで2階へと着いた。てっきり廊下があって扉が何個かあるのかと思っていたけど。


「扉だけしか無いんだが」


「変わった家みたいだな」


 階段の頂上にはちょっとしたスペース、学校の階段の踊り場くらいのスペースしか無く、そこには宝石等で彩られた立派な赤色の扉があるだけだった。持ち主が不在の今でも、その装飾品達は変わらず光を反射し、煌めいている。


「へえ、なかなか趣味が良いじゃないの」


「そうですね。結構高そうです」


 姫と従者が一歩前に出る。話が嚙み合っていないように見えるのは、気のせいだろうか。


「それだったらリリカが先に入るか?」


 少し意地悪してリリカに問う。


「い、いや。それは止めておくわ。先頭はチヒロに譲ってあげる」


「怖いのか?」


「別に怖いってわけじゃないんだけど!」


 よしよしとシーニャが撫でている。これある意味シーニャがいて助かったな。


 派手な扉のノブを回す。雰囲気からだろうか、ずっしりと重たい気がする。


「うおっ!なんだこれ!」


 扉の先には、こちらを向くようにして大量の本棚が設置されていた。木製の本棚と本自体から独特の匂いが充満している。狭かった1階の部分も利用しており、更にはもっと高く、天井ギリギリまで使った吹き抜けになっており、階段で上にも下にも行けるようになっている箇所もある。様々な本の色鮮やかな背表紙は、これもまた装飾品のようだ。


「チヒロ君、この部屋……」


「ああ、凄い本の数だ」


「いや、それだけじゃない。この部屋だけ明るいだろう」


「……確かに」


 言われてみると、はっきりと遠くの本の色まで見えるのは不自然だ。さっきまでは暗闇だったのに。見回してみると、壁や天井がぼんやりと明かりを放っているようだ。ダンジョンなんかと同じ原理だろうか。


「なあステラ、この本……ってあれ?」


「ステラならあっちに行ったわよ」


 リリカに指で示された方向を見ると、ステラは階段で上った所にいる。研究者気質だからだろうか。とても楽しそうな表情に見える。


「じゃあこのまま4人で調査っつーことで。何かあったら誰か呼んでくれ」


「わかったわ」


「はーい」


 原因がわからない中での単独行動は危険かもしれないが、2人なら結構手繰れだし大丈夫だろう。どっちかって言ったら俺のほうが危険というか……ステラの近くに行くか。


「あれ?なんだあれ」


 もう一度上段を向くと、ステラに向けて何かが羽ばたいていくのが見える。よく見ると、一冊の本だ。本がページを広げて翼のようにして飛んでいる。

 ……嫌な予感がする。あれの正体はわからないけど、ステラに一直線に向かって行っているということは。


「ステラ!逃げろ!」


 叫んだとほぼ同時、ステラの頭上で本が爆発した。


「ステラ!!」


「私回復させてきます!」


 気を失ったのか、その場に倒れるステラ。その光景を見たシーニャが走り出す。

 

「ウインド!」


 部屋の天井の中心部へと戻ろうとした動く本へ、リリカが魔法を撃ち込む。しかし、あまり通用しているようには思えず、ただ流れ弾で本が散らばるのみ。

 空き家の物音の正体はあいつだろうか?


「魔法耐性が高いみたいね……」


 攻撃を受けた動く本は、次はリリカへと飛行を始める。本に何かした人へ攻撃してくるみたいだ。


「だったら俺が!」


 こんなところではゴーインもビームも使えない。剣を握り、リリカの前に立ち応戦の構え。ステラが復活したら多少の傷、俺なら大丈夫。来るのはまだ爆破だろうし、その隙に切ってやる。


 ガキイィィィン!


 響き渡る音は鉄のぶつかる音。ぺらぺらとめくられた本からは剣が飛び出してくる。


「なんだよこれ!」


 しばしの鍔迫り合いの後弾き飛ばした。カラァンと剣が地面に落ちる音がする。俺はその勢いで後ろへ一歩下がる。


「あいつ、ページ毎に違う攻撃をしてくるんじゃない?」


 俺に合わせ一歩下がったリリカが言う。本は俺達から3mくらいの空中にホバリングをしながら、ペラペラとページをめくっている。ページが変わる度に水や土が落ちたり、先ほどの剣とは違うものが出てたりしている。なるほど、全属性が使えるとかそんなもんか?


「どうしますか天才さん?」


「あいつに魔法攻撃は通じない。物理だけが有効だと思うわ。だけど正面から行くと防がれるわ。挟み撃ちにしたところだけど同じく物理のシーニャはステラの治療中。気を失うくらいだから少しは時間はかかるだろうし、あたし達でどうにしかするか時間稼ぎね」


「オーケー」


 多分ステラの魔法であいつを床に拘束出来れば良いんだろうけど、今はそれも出来ないか。

 じっとしていても仕方がない。俺達は一歩前へと出る。


 作戦会議が終わるのを待っていてくれたかのように、本は俺達に向かってきた。



「シールド!」


 ページから飛び出した爆破魔法が風の壁に阻まれる。シールドを解除した瞬間に俺は飛び出したが、本の方が速い。上に飛ばれて剣は宙を切る。


「ハイウインド!」


 中級魔法はさすがに危険と思ったのか、同じく風魔法で相殺を行う。ただの本の癖に中級魔法クラスまで使えるのかよ。


 また後ろに下がったリリカと距離を取り、空中でページをペラペラする本。くそっ、何か挑発みたいに見えるな。


「あれ?」


 さっきより長い滞空時間。何か攻撃してこない理由が?辺りをキョロキョロと見回す。奴は本に対し触れた相手に攻撃をしてくる。だから俺よりリリカを優先的に攻撃している筈……ああ、なるほど。


「どうかしたの?」


「どうやら時間稼ぎを行う必要は無いみたいだぞ」


「え?」


「距離だ。奴は自分で本を攻撃出来ない。だからリリカが動く度に滞空しているか攻撃してくるかが変わっていたというわけだ」


 だからリリカが動かなければステラの回復を待てる。ただ恐らく回復した段階でターゲットが2つに分かれる。向こうに行かれると少し厄介かもな。


「リリカ、合図をしたら一歩前に出てくれ。多分俺は狙われない。ここから離れる」


「わかったわ」


 俺はリリカの前を離れ、滞空している本の後ろに回り込む。ゲームやマンガじゃあるまいし、流石にジャンプをしても届かない高さ。このまま不意打ちは出来ないだろう。


「回復終わりました!」


 書斎にシーニャの声が響く。準備は整った。


「ステラ!俺の体を軽くしてくれ!」


「ケホッ……回復したての人使いが荒いね。グラビティ!」


 俺の体が軽くなる。


「リリカ、前に!」


 指示を受けたリリカが前に出る。それを合図として、一瞬ステラに向かおうとした本は、再び近い方に優先して向かう。


 軽くなるというのは速さも上がるということだ。俺は飛び上がり切れる高さになったところで本へ剣を振り下ろす。本自体の反応より早く一刀両断。真っ二つ。


『シーニャのレベルが30に上がりました。能力【収納】を解析しました。成長します』


 本の癖にレベルが高え。ヌシの一歩下じゃねえか。あと【収納】か……収納?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る