ダンジョン攻略③

 6〜9階はシーニャの独壇場で終わり、今は10階。聞いていた話だと階層主がいる筈だ。階段を降りた所には巨大な鉄製の扉がある。


「ここの先に階層主がいるって訳か」


「そうだ。地図によるといるのはスライムライダーみたいだ」


 スライムライダー……?あのドラゴンのクエストに出てくるあれ?


「スライムの上にさっきまでのゴーレムが乗ってるらしいぞ」


「あー、そういう合わせ技」


 それだったら簡単そうだな。スライムなんてどうせぷるぷるしてるだけだし、どうにかゴーレムを下ろしたらシーニャが砕けば良い。

 ……ほんとはちょっと試したい事もあったんだけどしょうがない。あれ?俺主人公じゃなかったっけ?活躍の場少なくない?


「レベルはあたし達の方が高いからまあ大丈夫だとは思うけど、次こそ頼むわよ」


 腕を組んでシーニャの方を向き、不安そうな顔のリリカ。うん、ほんとにそうですわよ。


「大丈夫です、意識します!」


 さっきまでの階ほぼ全てでその事言ってたけど、大丈夫かほんと。


「じゃあ開けんぞ扉」


 そう言って俺は目の前の扉に手をかける。

 ……ふーん、鉄で出来てるだけあって結構重いじゃん。ふんっ!……ぐぐぐ!ふんっ!

 ……いやいやいや、重すぎません?


「魔法かけようか?」


「お願いします……」


 ステラの魔法で扉を軽くしてようやく動く。自動ドアにでもしてくれりゃ良いのに。

 初心者向けの割に敵もまあまあ硬いし扉も重いし、結構ハードル高くねぇ?


「つーかさ、この扉で俺の体作れねぇの?」


「多分しばらく経ったら消えるぞそれ」


「じゃあ無理か……」


 楽は出来ねえって事ですか。ちなみに似たようなので、フライパンとか鍋で出来ません?って聞いたらシーニャに「もったいないからダメです!」って叱られました。ダンジョンで手に入れるしかない。


 扉の奥に入る。先にあったのは教室くらいの大きさの部屋。ここにいきなり階層主がいるのかと思ったらそういう訳でも無いみたい。まず目につくのは光ってる地面の1部。その奥にまた今度は小ぶりなボロい木の扉があることから階層主はその先なのはわかるけど、この光は何?


「あ、ヒーリングポイントですね」


「は?ヒーリングポイント?」


「ええ、この中に入ると体力と魔力が全回復します」


 流石にセーブポイントは無いんだろうけど、そういうのはあるんですか。

 全員全回復してからボロい扉を開ける。


 ギギギと音を立てて開いた扉の先は、教室より少し大きい部屋。理科室とかそんなもんだろうか。そこにいたのは、普段の水色のスライムとは違い橙色のスライムに乗った鎧を身につけ、剣を携えたガイコツ。あいつもゴーレムなのか?

 下のスライムがずーっとぽよんぽよんしてるからバランスボールに乗ってるようになってる。


 あー、あいつ嫌われてんのかなー。


 だって扉ボロいもん。鉄の方に予算使ったのかわからないけど直してもらってないんだもん。

 カタカタと音を立てて笑ってるように見えるそいつは、俺からすると逆になんか哀れに思える。


「チヒロ君?油断してないか?」


「あ、いやしてないしてない」


 まあ何はともあれ奴は階層主。今までの奴らとは格が違う。


「先手必勝!ハイウインド!」


 リリカがスライムライダーに向けて魔法を撃つ。


「えっ、避けた!?」


 見慣れたスライムのぽよぽよ移動とは違い、橙色のスライムは俊敏な動きで魔法をかわす。そーいや橙色のって強化版だったっけ。


「ここは私が!」


 予想は付いたけどシーニャの打撃もひょいひょいと全てかわす。


「だったら次は!」


 ステラの弓はもはや避ける価値も無いと思ったのか、スライムの身体を通り抜け、ゴーレムは鎧でダメージ0。

 3人の攻撃が通じないってなかなか厄介な相手だなあいつ。


「なあチヒロ君?」


「ん?」


「私誰よりも活躍の場が無い気がするんだけど気のせいか?」


「……さぁ次は俺だ!」


 ステラの悲哀は置いておいて、次は俺。かといってゴーインは当たらない気もするし魔法はリリカ以下、剣はもっての外。なんかあいつも跳ねてるだけだしあれを試してみるか。


「ちょっと試したい事がある。みんな、俺の後ろに下がって」


 言われた3人は素直に引き下がる。金要求されたらどうしようかと思った。


 オークの【放出】、ヌシの【火力増強】、そして火と雷の属性。さらにはこのゴーレムの体。なんかさ、ビームくらい撃てそうじゃない?

 

 【放出】を試した時は、魔力量も全然足らなくて、小さい岩も壊せなかった。【火力増強】は試す機会がまだ無い。

 でも、【放出】で撃ち出す魔力に属性を加えたら?更に【火力増強】も追加したら?更に雷とかビームに必須そうなイメージ。

 巨大ロボと一緒にするのは申し訳ないけど、俺だって今は似たようなもんだろう。


 手を前に出す。能力と能力の掛け合わせ、更には属性等もてんこ盛りにしてみるっていうのはやった事が無い。けど、理論上は可能だと思う。

 ぽよんぽよんと跳ねているだけのスライムライダー。撃ったとしても当たんねぇ気もするけど良い練習台として活用させてもらうぜ。


「喰らえー!ゴーレム?ビーム、えーっとなんかわからないけどいっけー!」


「事前に考えておきなさいよ」


 冷ややかな声を背に俺の手が光り輝き、圧縮された光線が発射される。

 予想通りの技が出せてめちゃくちゃ嬉しいけど、予想と違うところは1つ。めっちゃ細い。しかも遅い。


 ピーっと発射されたビーム?というかレーザーポインターみたいなそれ。後ろからまたしても冷ややかな視線を感じる中、避ける意味も無いだろうと避けなかった骸骨に当たる。


「……ちょっとあんた!ハイシールド!!」


 ドッゴオォォォォォォン!!


 骸骨に当たった瞬間、ビームが破裂し、とてつもない爆発が起きる。

 ……リリカが何かを察してシールドを張ってくれたから良かったものの、これ何も無いままだったら壊滅してたかもしれない。


 煙が晴れ、スライムライダーは確認出来ない。どうやらそのまま消滅したようだ。まあさすがにあの爆発じゃ無理だろう。


 そしてもう一個の問題。


「チヒロ君……大丈夫か?」


「意識はちゃんとしてるんだけど、なんかもう体が動かないっス……」


 撃った瞬間にそのまま力が抜けてうつ伏せに倒れた。どうやらあのやり方でやると魔力が強制的に0になるみたいだ。


「あんたあれ上級魔法クラスじゃない?着弾した途端に魔力の跳ね上がりが凄かったわよ。シールドで守れるギリギリだったし、とてつもない事をいきなりしないでほしいんだけど」


「って言われても俺も知らなかったし……」


「まず外で試して!!」


 ごもっともである。崩れるようなダンジョンだったらもう終わりだった。


「ステラー、俺魔力切れらしくて動けないんだけどどうしたら良いのー」


「魔力は魂由来の物だろう。とりあえずなにか食べたりするしかと思うぞ」


 はあ……これも頻繁に撃てるものじゃないって訳ね……まともな技が欲しいんですけど?

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