第三話 ソニット6

オレ達はアイギスの谷にてソニットの捕獲を達成した。そしてギルドに生きたまま捕獲したソニットを渡した。ギルドまで運んでいる間、ソニットにはレティアの力減少魔法をかけ続けていた。その上ミカサの水魔法の中に閉じ込めておいた。


その為ソニットはオレ達の元から逃げ出すことが出来ず、安全にギルドまで運ぶことが出来た。


そしてクエストの報酬を受け取ったオレ達は、そのままの足で武器や防具を売っている店に向かっていた。


「それにしても、これはどれくらいの価値があるんだ? いまいちこの世界での相場が分からないんだが」


オレは先ほど受け取った金貨が入った袋を鳴らしながら、ミカサとレティアに向けてそう呟いた。


そんなオレの言葉に反応したのは、意外にもレティアの方が早かった。


「先ほど頂いた銀貨三枚は……食欲を満たすだけなら、1ヶ月は過ごせる金額です…」


「え、銀貨三枚って言うのはそんなに価値が高いのか。ただ一匹のウサギを捕獲しただけだぞ」


「ですが…ソニットの捕獲クエストは……難易度が星4でした。この街でのクエストとしては、難易度が高いと思われます……」


「だからこれだけの価値があるのか。冒険者って稼げるんだな」


オレはそう言いながらも、レティアが積極的に話してくれることが嬉しかった。このクエストが始まるまでは、オレ達が会話を振っても定型文のような相づちしかなかったレティアが、今はむしろミカサよりも話してくれる。


「ソウト、ずるい」


そんなオレ達の様子を見ていたミカサが、後ろから指を加えてオレ達を眺めていた。


「なんでソウトはレティアちゃんと手を繋いでいるの? なんでこの短時間でこんなに仲良くなっているの……」


ミカサの愚痴通り、オレとレティアは手を繋いで街を歩いていた。レティアはソニット捕獲の際に言ったオレの言葉に感銘を受けていたが、まさか短期間でここまで懐かれるとは思わなかった。


だがそれだけレティアにとって、自分の魔法が認められることが大きかったようだ。レティアがオレに懐いてくれていることよりも、レティアが魔法に対して自信を持ってくれたことが嬉しかった。


「ミカサさん……どうしたの、ですか?」


レティアはミカサの方を見ながら首を傾げた。ミカサが何に不満を持っているのか分かっていないようだった。


「レティアちゃん! あたしとも手を繋いで欲しいの!」


「……いいですよ?」


疑問を示しながらもレティアは右手をミカサに差し出した。そしてミカサはその手を取る。

レティアの左手はオレの右手と、レティアの右手はミカサの左手と繋がれた。そしてオレ達三人は仲良く目的地へと向かう。


「そういえばミカサ、前のクエストの報酬っていくらだったんだ?」


今回のクエストの難易度は確認していなかったが、先ほどレティアが星4だと言っていた。そしてハードロックのクエストは、それを上回る星5だったはずだ。


「銀貨八枚だったよ」


「えぇ!」


ついオレは声を上げる。だがミカサはたいした事ではないで、真顔のままこちらを見つめ返してくる。


「だから今回の報酬は全部レティアちゃんの物で、ハードロックの討伐報酬をソウトにあげるね。これで武器や防具を買えるでしょ!」


「だがそれだと、ミカサには何も残らないんじゃないのか?」


「良いんだって。前も言ったとおり、あたしはお金をいっぱい持っているから」


「あれって気を遣って言っていた訳じゃないのか?」


「そんな事言っていて良いわけ?」


ミカサがそう言ったのと同時に、オレ達は目的地だった武具屋に着いた。

そこには男心をくすぐるような、異世界らしい武器や服装が所狭しと並んでいる。


「――これを買うには、お金がいるんでしょ?」


「はい、お金が欲しいですミカサ様」


その輝く武器や服装に釣られてオレはミカサの前に跪いてしまった。


「しょうが無いわねソウト君。貴方にお金を恵んであげよう」


「ありがとうございます」


ミカサに綺麗なお辞儀をして、銀貨八枚を受け取った。再びミカサに借りが出来てしまったが、それも次のクエストで返すことにする。

その為にも武器が必要だと自分に言い聞かせる。格好いい武器ならなお良い。


そんな武器を選ぶ前に、オレはレティアの前に向かった。そして今回受け取っていた銀貨三枚を渡した。


「これをティが受け取っても、良いのですか……?」


「当たり前だろ。これはレティアの魔法のおかげで貰えたお金なんだ。折角だしレティアも何か欲しいものがあれば買っておけよ」


「……ありがとう、ございます……」


レティアはそう言って小さく頷いた。


「じゃああたしも、ハードロックの核を使って、杖を強化して貰わなくちゃ」


ミカサはそう言って店の奥に一人で歩いて行く。オレは剣のコーナーに、そしてレティアはオレの後ろに付いてくる。



そして店を出る時には、ミカサの杖がレベルアップし、レティアは何か袋を持っており、そしてオレには新たな剣が装備されていた。


「さぁ、これでやっとモンスターを討伐できるぜ」


オレは剣を手にしたことで、やる気と力が漲ってくる。今ならなんだって倒すことが出来る……気がしていた。


そしてそんな一時の気の迷いから、オレは『リザードマン5体の討伐』というクエストを選んでしまったことを後悔したのは、少し先のことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この魔法に願いを込めて kiwa @kiwa0250

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ