行方不明
それから何回か絵を描いてみたけど、誠君は、あの日の絵をもう描けなかった。
本当に奇跡だったのかもしれない。
そしてまた、追い詰められるような日常に戻った。
私は、これからのことをお母さんに相談するために、電話をかけていた。
晩ご飯を食べたあとの時間。
つわりもひどくなってきて、もう誠君と暮らすことは無理があることを話した。
『そう。じゃあ、早いうちに施設を探して手続きをしないとね。それまで大変だから、2人でうちにいらっしゃい。その方がいいでしょ?』
「…うん、そうしようかな。ごめんね、お母さん、私のわがままで2人で暮らしたいって言ったクセに、結局は甘えて…る…」
悲しいのか悔しいのか分からずに、涙が込み上げてくる。
「それは浩美のせいじゃないから。ね、これからは別の暮らし方で、みんなが幸せになる方法を探しましょ」
「…うん」
電話を持ったまま、私は涙を止めることができなかった。
お母さんは、しばらくそのままで待っていてくれた。
「ごめんね…」
『ほら、もういいから、ね?もう誠君をお風呂に入れる時間じゃないの?』
お母さんに言われて時計を見た。
8時を回っている。
「あれっ!いない!」
『え?お風呂とかじゃないの?』
「ううん、あれ、どこにもいない!あっ!!」
いつのまにか、玄関ドアが開いていた。
脱いだ靴がドアに挟まって半分空いている。
「玄関が開いてる、いつのまにか出て行っちゃったみたい」
慌てて外を見る。
見当たらない。
『どうしたの?外へ行っちゃったの?』
「そうみたい。ごめんね、今から探すから」
『慌てないで、お母さんもお父さんと行くから』
玄関には、誠君の靴もある。
うまく履けなくて、裸足で行ってしまったのだろう。
_____もう真っ暗なのに、どこへ!
うっかり、玄関の鍵をかけていなかったことを悔やんだ。
「誠君!どこ?」
アパートから5メートルほどで大きな道路に出る。
_____まさか…
時折通る車のライトと、看板と、街灯。
真っ暗というわけじゃないけど、交通ルールもわからない誠君の行動が読めない。
_____どこに行っちゃったの?
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