後遺症
「残念ですが、これ以上の回復は見込めません」
誠君が入院してから一か月。
外傷はほぼ完治したので、これからのことを説明しますと、主治医から呼ばれた。
「たとえば、訓練とか、リハビリとかでもとのような生活に戻ることは?」
「それは…おそらく、無理ですね。脳のダメージが大きくて…」
お父さん、お母さん、私。
その前に主治医と、専属の看護師さん。
書類やデータを見せられて、今の誠君についての説明があった。
“体には後遺症は残らないが、脳には大きな後遺症が残る”
テーブルの下で、私の手をぎゅっと握りながらお母さんが代わりに質問してくれる。
「わかりやすく、説明してもらっていいですか?具体的に」
うーんと、腕組みをする主治医。
「今現在、永野さんの様子を見ていてお分かりだと思いますが…脳年齢というか精神的なものが、おそらく3歳から5歳くらいではないかと思われます」
病室での誠君を思い出す。
食べ物も食べさせないと、食べ方がわからない、顔も洗えない、文字も計算もほとんどわからない。
そしてなにより、会話が成り立たないのだ。
私のことを奥さんとしてではなく、まるでお母さんのように見ている。
「でっ、でも、それならこれから訓練をすればどんどん成長して大人の脳になるのでは?」
「それは無理ですね、子どもならばどんどん成長していきますが、成長できないんです。脳に傷があって、そこはどうしようもないんです」
私は何を考えればいいのか、どう答えればいいのかまったく頭が回転していなかった。
「浩美…?」
「……」
しばらく流れる沈黙。
「あのですね、それでは先生はこれからどうするべきだとお考えですか?」
お父さんが話す。
「こちらで治療すべきところ、治療できることはもうありません。明日にでも退院してもらって構いません。ただ、奥様が妊娠されてるということを考えると、お二人での生活は無理だと思われ…」
「大丈夫です!」
「浩美?」
「誠君は生きてます。頭の中が子どもになっちゃってるんですよね?なら、大きな子どもを育てると思えば…」
私はその時に思いついたことを言った。
財布にあったあのイラスト。
一緒に幸せになろうと約束したあの日。
もう絶対に離れたくないと思ったことも、それら全部で、これからも誠君と暮らしたいと思った。
「そんな簡単なことではないですよ」
「そうよ、浩美。あなたはお母さんになる体なんだから、何か方法を考えましょう?」
_____でも、絶対に誠君と離れたくない
私はお腹をさすりながら、そればかりを考えていた。
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