目覚め

一昨日からの雨がやっと上がり、外は久しぶりに太陽の光があふれていた。

私はカーテンを開けて、太陽の光が誠君に届くようにした。


「今日は暑くなりそうだよ。お日様が当たると暑いかな?誠君…あ、誠君?」


瞼がゆっくりと開いて、黒い瞳が見えた。


「あ、目が覚めたの?誠君、わかる?私だよ、ヒロだよ!あ、そうだ、先生を呼ばないと!」


私は慌ててナースコールのボタンを押した。


『どうされましたか?』

「誠君が、目を覚ましました」

『すぐ、先生に連絡しますね』


パタパタと足音がして、担当の先生と看護師さんがやってきた。


「先生、さっき誠君が目を開けました」

「わかりました、診てみますね。永野さーん、わかりますか?ここは病院ですよ」

「……」

「これ、何本に見えますか?」


先生が誠君の前に、ピースをして見せた。


「…に?」

「はい、そうです。じゃあ、僕の指を握ってみてくれませんか?そうです右手ですよ」


ゆっくりと誠君の右手が先生の指を掴んだ。


「はい、よかったですね。まだ動かしにくいところとかあると思いますが、これからゆっくり治していきましょうね」

「……」


目を覚ましたのに、心ここにあらずのような誠君だった。


「先生、あの、誠君はどうなんでしょうか?」

「こちらの言うこともわかっていますし、目も見えています。自分のおかれた状況がわかるまでは、まだ時間がかかるかもしれません。それから、後遺症があるのかないのか、まだこれから調べないといけませんが…。とにかく目を覚ましたので、第一段階はクリアしましたよ」

「はい、ありがとうございます」

「では、また、何かあったら連絡してくださいね」


_____よかった…


ずっと天井を見上げたままの誠君の視界に入るように、上から覗き込む。


「誠君、よかった、目が覚めて」

「……」

「痛いところはない?お水、飲む?」

「……」


目が合ってるはずなのに、私のことをわかってないような気がする。


_____焦っちゃダメだ


「そうだ、私、お父さんたちに連絡してくるね」


携帯を持って、ロビーへ行く。

意識が戻った、まずはそのことをみんなに報告しないと。


お父さん、お母さん、溝口君、それから誠君の勤め先にも意識が戻ったことを報告した。

みんな、口を揃えて、焦らずにしっかり治療するようにと言ってくれた。


_____あなたのお父さん、大丈夫だよ


私はお腹をそっと撫でて、我が子に伝えた。

お腹には、2人の子供がいると思うだけで、誠君に付き添っていてもひとりじゃないと思えて心強かった。


「あなたがくれるパワーって、すごいね」


小さな声で、まだ見ぬ我が子に話しかけた。




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