変化

夏に同窓会の計画を立てて、実行するのは秋。

参加者の確認をする中で、誠君のことを耳にすることがあった。


“お母さんが亡くなったらしい”


ということは、エレナとペドロの3人で暮らしているということなんだろう。

参加不参加の返事をまとめていたら、誠君からの“参加”の通知を確認した。

その葉書をしばらく見つめてしまう。


「どうした?あ、誠からの返事?どっち?」

「参加するって」

「そうか、まぁ、落ち着いたってことかな?」

「そうだね…」


誠君の生活はどんなふうに変わったのだろう?

私はあの日、公園でブラジルでのことを聞いた時のままで、何も変わってないというのに。

誠君だけが先へ進んでるようで、ずるいと思った。


「なぁ、神谷かみや、誠のお母さんが死んだって聞いた?」

「うん、誰かが言ってたから」

「あの時一緒に住んでた女と赤ちゃんもいなくなったらしいよ」

「え?どうして?」

「さぁ、詳しくはわからないけど。ビザとかの問題なのか、行方不明になってた恋人が見つかったのか、はたまたもっと別の理由か。とにかく、今は1人だって話。俺も直接は聞いてないけどね。それに…」

「それに?」

「同級生のみんなは、たいてい誠と優子は結婚したんじゃないかと思ってるみたいだ、まぁ、卒業当時はあんなに仲良かったからなぁ」


私と誠君のことは、溝口君くらいしか知らないんだった。


「だからさ、神谷かみやと誠のことを知らないヤツらは、何も気にせず話してくると思うけど…もう大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思う」

「ちゃんと決めたのか?終わりにしたのか?」

「……」

「あ、ごめん、話したくないならいいよ」

「ううん、決めてもいないし終わってもいない、私はね。誠君はわからないけど」


そうだ。

誠君の中では、もうとっくに私のことなんて終わってるかもしれないのに、なんで私はまだ先へ進めないのだろう?


「じゃあさ、いい機会だから話してみろよ。同窓会の後でさ。ところで優子は?」

「不参加になってた。仕事で本社に異動になったんだって。すごいね」


不参加と◯がされた、優子からの葉書を見せた。


「アイツは、いつからそんなに仕事するようになったんだ?てっきりさっさと結婚して主婦になると思ってたよ」

「そう?私は優子らしいと思うなぁ」


優子はすごい。

どんどん自分の進むべき道を決めて、進んでいる。

私も優子のように、きちんと決めなきゃいけないな。




その週の日曜日。

高校の校舎を借りて、デリバリーと持ち寄りで一次会、お店を借りて二次会をやった。


懐かしい顔ぶれの中に、日に灼けて精悍になった誠君を見つけた。


「あとは俺がやるから、行っといで」


溝口君に言われて、誠君の腕を引っ張って、こっそり二次会を抜け出した。


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