流れていく時間

_____すぐには、気持ちの整理ができない


まだ大人になりきれてない私には、誠君の全てを受け入れられるほどの心のキャパがない。

近いうちにもう一度会って話したいと思いながら、会ってもまた同じことの繰り返しだと諦めてしまう私もいる。


誠君の背中には今、たくさんのことが乗っかっている気がする。

そんな状態で、私のことを考える余裕なんてないだろうな。


その代わりに、私は自分で自分の気持ちをじっくり考えてみることにした。

短期間でいろんなことがありすぎて…

そのどれもが予想してたこととは違いすぎて…

自分の心にもモヤがかかってしまったようだ。


離れていた3年の時間を取り戻すには、それ相応の時間が必要なのかもしれない。


_____ん?取り戻す?


私は何を取り戻したいのだろう?

誠君の気持ち?

真っ直ぐにお互いだけを見ていたあの頃?

誠君のことだけを見ていた自分の気持ち?


「あーっ!うまく描けない!」


最近では、直接イラストの注文が入るようになっていた。

今回はバースデーカードのためのイラストだった。


幸せな絵って、幸せじゃないと描けないのかなぁと思う。

今の私には描けない?

あ、そういうことか。

描きたい絵ではなく、欲しがられる絵を描くのは想像していたよりキツいかも。


それでも私は、絵を描くことで幾らかの生活の足しになっている。

本当に絵を描きたかった誠君は、絵を諦めたのに。


でも。


_____こうしている時も、誠君はエレナと暮らしている…


そのことが割り切れない。

ずっとモヤモヤしたままで、時間だけが過ぎていった。


◇◇◇◇◇





誠君からの連絡もなく、私から連絡することもなく、あっというまに半年ほどが過ぎて季節は夏になっていた。


市の連絡板に、高校の廃校が2年後に決まったと書いてあった。


_____とうとう、なくなってしまうのか


寂しさが胸を支配した。

なんでこんなに寂しいと感じるんだろう?と考えながら、校舎の近くを通る。

今年度いっぱいで、全校生徒が転校することになって、そして跡形もなく壊されてしまう。


蒸し暑い午後。

高校の近くの駄菓子屋さんまでやってきた。

お店の中からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。

ラムネとポテトスナックを買って、ベンチで食べたことを思い出す。


「あれ?神谷かみや!なんでこんなとこに?」

「え?あ、溝口みぞぐち君、何してるの?」

「ん?まぁ、デート。俺が通ってた高校が見たいってこいつが言うからさ」


そう言ってすぐ後ろにいた女の子を、つつく。


「はじめまして、横井よこい真理亜まりあです」


可愛らしい声で自己紹介をしてくる。


「私は同級生の神谷かみや浩美ひろみです。溝口くんには色々とお世話になってます」

「たまーにお名前を聞いてます。絵が上手い方ですよね?」

「ま、まぁ…」


どんなふうに私のことを話してるんだろうと気にはなったけど。


「そんなことより、とうとう決まったな、取り壊しも」

「うん、寂しいね」

「それでさぁ、やらないか?同窓会。集まれる人間だけでもさ、校舎があるうちにさ」

「あー、いいね。溝口君がまた幹事やるの?」

「やるから、神谷かみやも手伝ってくれよ」

「私?」

「うん、会費の管理とか雑用をさ」

「わかった、いいよ」

「ほんとか?じゃあ、早速準備しよう」




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