不安
誠君からの手紙が届かなくなって、8ヶ月が過ぎた。
誠君がブラジルへ発って2年と10ヶ月が過ぎた頃だった。
約束通りならあと2ヶ月、今年のクリスマスには誠君が帰ってくる予定だった。
「浩美、今年のクリスマスには誠君、帰ってくるの?」
「うん、その予定。はっきりした日時はわからないけど…」
「そう…。元気で無事に帰ってくるといいね」
「うん、元気だよ、きっと」
お母さんに聞かれた時、とっさに嘘をついた。
もうずっと手紙が来なくて、元気にしているかどうかもわからないなんて、言えなかった。
確かめようがなかった。
「ちょっと出てくるね」
私は、いつものスーパーにイラストを届けに行くふりで街に出た。
本当ならば、あと2ヶ月で帰ってくる誠君と一緒に過ごす予定のクリスマス。
本当に帰ってくるのだろうか?
学校帰りによく歩いた歩道橋に来た。
秋の夕方は、一気に翳ってくる。
建物や鉄塔や電柱の影が、グーっと伸びてそしてあっという間に夜になる。
“この一瞬の景色がすごくいいよね!”
そう言っていたのは優子だった。
“じゃあ、その一瞬をずっとにするよ”
そう言って、そこからの景色を小さなキャンバスに描いたのは誠君だった。
そんな2人を見ていて、『誰かを好きになるということはその人の願いを叶えようとすること』なんじゃないかなと思った。
お父さんも、お母さんが住みたいと言っていた憧れの家を作ったし。
_____私の夢も叶えてよ、誠君…
暮れていく夕日を見ながら声に出していた。
「あれ?」
遠くから声がした。
私を呼んだのかな?とふりかえるとそこにいたのは、溝口君だった。
「あー、溝口くん」
「
「んー、ちょっとね…。あ、そういえばきちんとお礼を言ってなかったよね?」
「なんの?」
「イラストの仕事、紹介してくれてありがとう」
「あ、あれか、うまくいってよかったよ。今もやってるの?」
「うん、おかげさまで、別のお店からもオーダーが入ってる」
「そっか、それはよかったよ。イラスト、上手かったもんな、昔から」
「そうかな」
「そうだよ。誠が描く油絵もいいけどさ、
思いもかけない溝口君の言葉だった。
私のイラストをそんなふうに思ってくれてたなんて、うれしかった。
「ありがとう」
「いやいや。仕事につながったのは、やっぱり
「うん、あ、聞いてもいい?」
「ん?」
「誠君のこと、何か知らないかなと思って」
「誠?アイツ、そろそろこっちに帰ってくる予定じゃなかったっけ?」
「うん、そうなんだけど、いつ帰ってくるのかわからなくて…」
「
「サプライズ?」
「そうだよ、いきなり帰ってきて、驚かせるつもりなんだよ、きっと」
_____そうか…サプライズかも?そうか…
そんなあやふやな想像でも、今はそれにすがることにした。
私は変わらずにここにいる、それが約束だから。
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