ギルド スノープリンセス2 残念勇者がやってきた

XT

第1話 プロローグ

「ダメだ!私は認めない!!」


雪姫が大きな声で叫ぶように言う。顔に余裕はなく、いつにないきつい表情だった。




「認めるとか認めないとかではないぞ。これは決定事項だぞ」


皮のジャケットにデニムのスカート、腰には剣を差す女性、アリスが言う。


「済まないがアリスの言う通りなんだ。地球を救う方法はない。放置すれば、全宇宙の崩壊が起きてしまう。地球を犠牲にするしかないんだ」


2本の剣を腰に差す男。勇者ケインは穏やかな口調だった。


「はい。いろいろな方法を探りました。でも、もうどうすることも・・・残された時間は少なく、すぐにでも処置を始める必要があります」


女神ティナ。天界の実力者、ヴィーナス家の3女にして、勇者ケインのチームの担当。


「なら、なぜ自分たちが呼ばれたでありますか?何のために呼んだのでありますか?」


漆黒の宇宙空間で浮かぶ光の球体。球体の中には雪姫と飛鳥、アリスとケイン、そしてティナが居た。


眼下には青く輝く地球がある。






1か月前。


超大型ハドロン衝突型加速器の実験により『ハイパーブラックホール』が形成されてしまった。


成長すれば、地球は空間ごと食われ、さらには太陽系から銀河、全宇宙まで食らいつくされる。


女神は警戒懸案として実験を注視していたが、ハイパーブラックホールの形成が確認されたと同時に、地球に対し『時間停止』処置を施し、地球の時間を停止した。


が、ハイパーブラックホールは完全に活動を停止しない。


天界の最高意思決定機関は地球に対し『空間の固定と時間凍結』処置を決めた。


この処置が実行されることで、地球は未来永劫『今』から先に進むことはなくなる。






「呼んだ理由は簡単だぞ。法的な問題のための同意が欲しいぞ」


アリスは淡々と言うが。。。


「誰が同意なんか!私は絶対に認めない!絶対にだ!!」


雪姫は強く叫ぶ。


「なら仕方ないぞ。同意が得られたことにして、書類を作っておくぞ」


アリスは、うっすら笑いを浮かべながら答えた。


「そんな・・・」


「アリでありますか?」


事の重要性は理解していた。だが、アリスの表情と言葉は、2人を驚愕させた。


「言い方を考えろアリス!」


そしてすぐさまケインがアリスを咎める。


「柊さんと飛鳥さんを呼んだのは、地球への帰還を禁止していたからな。時間凍結処置が終わるまでは、自由に帰還してもらって構わないことを伝えるため・・そして、君たちは、このことが理解できる唯一の地球人だ。先に伝えておくべきだと考えた」


雪姫と飛鳥は、地球では解禁していない魔法を使える。


なので地球への帰還は禁止されていたのだ。




雪姫は言葉を失う。頭の中を洋々なことが駆け巡り、考えが纏まらない。


対して飛鳥は冷静だった。今聞く事、聞かなくてはいけないことが分かっていた。


「いつまででありますか?」


頭を抱え呆然とする雪姫をよそに、飛鳥が質問した。


「最短だと現地時間で10日ほどです。時間凍結は時間停止とは違い、多くの女神たちによる術式の展開が要求されます。失敗すれば最初からなので、予備日として20日間を見ています」


ティナが淡々と答える。


「うちの科学班の計算では、地球が食われるまで60日だそうだ。地球が食われなければ、ブラックホールの成長はない。他の星、銀河、宇宙に影響は出ないと聞いたな」


ケインの言葉に呆然としていた雪姫がピクッと反応した。


「時間凍結魔法は200億年ぶりだそうだぞ。女神はドジだから1発では成功しないぞ。だから猶予は60日あるぞ」


アリスの言葉を雪姫は、抱えていた頭をそのままで聞いていた。


「はい。こんなことになり、とても残念です。本来ハイパーブラックホールは、自然での形成は不可能と言われていました。何者かが手を出さない限り、こんなことはあり得ません。とても残念です」


雪姫は頭を抱えたまま、口でケインとティナの発した単語を繰り返し、目が左右に動く。




「柊さん」


そしてケインの呼びかけに前を見据えた。




『君たちが阻止しようというのなら、俺たちは君たちと戦う覚悟がある』




ケインの勇者としての言葉だった。


が、雪姫はこの言葉を・・・・




「これがラムタ世界と地球を結ぶアイテム『便利なカギ』です。これを使えばいつでも地球へ行けます」


ティナが雪姫に鍵を渡した。


「言い忘れていたぞ。今の地球は特殊空間だぞ。案内が居るぞ。柊さんの通っていた高校の校庭で、科学班がデーター取りをしているぞ。トーレフとマリーに案内を頼むといいぞ」


アリスが口早に伝えると、ティナが両手を上げ宣言する。


「これにて時間凍結の承諾会議は終了します。意義は認めません。では解散します!」


雪姫は何かを言いかけたが、飛鳥と光に包まれ姿を消す。






「ふぅーーーだぞ」


アリスが肩で大きく息をした。


「大丈夫だ。柊さんなら今のでわかってくれるはずだ」


ケインがアリスの肩に手を置き、優しく言う。


「はい。柊さんたちは間違いなく地球へ行きます。後はトーレフさんたちにお任せしましょう」


ティナが眼下にある地球を見ながら言う。


時間停止魔法が施された地球は回転することもなく、ただ宇宙空間に浮かんでいるだけだった。






これは、まだまだ先のお話です。


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