Let's go! 〜客席に向けて〜




 オレは思わぬ形で救われた。


 アンチコメントが吹き荒れるなか、光のようなコメントがSN Sに書かれたんだ。


『ルースさんの校内暴力と言われるイジメ問題について。

……わたしは中学時代の元クラスメートです。ルースさんのことをよく知っています。SN Sの投稿で騒がれた、あのイジメ問題は間違って伝わっていると思います。

ルースさんはクラスで起きた喧嘩けんかを仲裁しただけなんです。その結果、激しいやりとりはありましたが、イジメではありませんでした。なぜ、あの時のことがイジメとなってしまったのか。詳細を知るわたしは悔しくてたまりません。活動自粛かつどうじしゅくになったルースさんのことを思うと、本当にかわいそうだと思います』


 泣けた。誰か知らないけど、あえて、こんな状況のなか発信してくれた子の勇気が嬉しかった。


 会社はダンスとか歌のレッスンとか、オレの練習量を増やしたけど。ステージに立てなければ意味がないと絶望していた。


 怒りも悲しみも消えていく。


 オレの感情が、なんていうかにぶくなった。悪いほうにばかり考えて、それが嫌になって。そのうちに感情そのものを失った。


 このコメントは、そんなオレを励ましてくれた。


 オレに、ずっと泣きたかったことを教えてくれた。

 顔も知らない誰かが、あの未熟だったオレを救おうとしてくれている。


 この擁護ようごコメント後、当時の友人たちもコメントを公に出してくれた。

 騒動は徐々に落ち着いた。


 誰が書いたか今もわからない最初のコメント。同級生の顔をひとりひとり思い浮かべてもわからない。


自粛じしゅくは終わりだ」と、社長が言った。

「ありがとうございます」

「だが、忘れるな。一度、ついた汚点はいつまでもついてくる」

「わかっています」


 今、オレは思っている。

 自覚がなくても、オレの言葉で傷ついた人がいたなら、それはオレが悪いって思う。傷つけてしまったことが申し訳なくて。イジメについて書いた彼女には会って謝罪した。

 でも、書かれてしまった内容は消えない。

 絶望しかないけど仕方ない。この後もきっと言われるだろう。


 最初にオレを救ってくれたコメント。

 本当にありがとう。

 あんたはオレの天使だ。


 あれから仲間といっしょにステージに立てるようになった。

 ファンたちの前で歌える。

 今日も客席には数えきれないほどのペンライトが輝いている。


 きっと、あの中のひとつにオレの天使がいる。なんとなく、きっといると思えるんだ。


(ありがとう、オレの天使!)


 オレは、これからも歌って踊って、いっぱい頑張る。死ぬ気で努力する。見ていてくれ。最高のステージにするから。


 さあ、ステージの幕が開く。舞台が暗転する。

 スポットライトがオレたちを照らす前の、ひとときの暗闇。

 照明が輝き、声援がひときわ高く響き渡る。

 心臓が破裂しそうだ。仲間が合図する。


 オレたちのヒット曲。冒頭、ダブサイレンから取ったイントロが鳴り響く。


『キュゥルルルルッ……』


 オレは頬を叩いた。


「Let’s go!」


          −了−

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キュゥルルルルルッ! Let's go!! 雨 杜和(あめ とわ) @amelish

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