夜が明けても

波島かおる

夜が明けても

 真夜中に私は目が覚めた。恐らく就活の不安からだろう。最近では毎度のことだ。私は就活の落ちこぼれで、大学4年の12月になった今でも内定がとれないでいる。とにかく眠らなければ。私は電子レンジで牛乳を温めて飲んだ。飲んでも体がどこかへ流れてしまうように不安だった。ベッドで横になって目を閉じても頭はさえてくるばかりだ。

 歩こう。私はジーパンとパーカーに着替え、コートを羽織って外へ飛び出した。行く当てもなく外を歩いた。小さな音楽プレーヤーも持ってきていて、耳には優しいクラッシックの音楽が流れてくる。私もこの世界に入り込んで一生出てこずに暮らせたなら。

 ふと、小さな公園が目に留まった。ブランコにおばあさんが乗っている。

「何をしているんですか?」私は聞いた。

 おばあさんはびっくりして、答えた。

「星をみていたんだよ。今日は1年前に亡くなった旦那の命日でね。眠れなくてね。」

「そうだったんですか。なんて言ったらいいか。」

「いいよ。何も言わなくて。お嬢さんはどうしたんだい?そんな暗い顔をして。まるで幽霊みたいだよ。」

「実は就活がうまくいってなくて、私大学4年生なのに、まだ内定もらえてなくて。最近眠れないんです。自分だけが独りぼっちな気がして辛いんです。」

 私は言葉の最後には泣いていて。涙声になっていた。

「そうだったのかい。まあここに座りな。」

 おばあさんは優しく言った。

「お互い独りぼっちで、夜も眠れないね。お嬢ちゃんが独りぼっちじゃなくなるまでおばあさんがこのくらいの時間にこの公園で話し相手になってあげるよ。どうせ私も最近眠れないしね。」

 それから私はその公園で毎日真夜中になるとおばあさんとお話をした。おばあさんは子供がおらず、ずっと旦那さんとふたりっきりだったそうだ。旦那さんのことはそんなに好きではなかったけれど、亡くなってみると独りぼっちなのが身に染みてきたらしい。

 そんなふうに過ごしていたら、少し体の力が抜けたのか、就活が最終面接までいけた会社があり、私は内定をもらうことができた。そのことを真っ先にあのおばあさんに報告した。

「よかったね。本当によかった。」おばあさんは泣いて喜んでくれた。

  おばあさんとはいつまでも二人ぼっちでいられると思った。でも、私が働き始めて1ヵ月後、おばあさんのアパートを訪ねたらおばあさんは亡くなっていた。まるで、私が大丈夫になったのを安心したみたいに。

 私はまた一人になった。けれど、星を見るたびに私にはおばあさんがついていると思えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜が明けても 波島かおる @0mon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ