第3話-1

【2083年12月22日午後10時30分】

【日本国 名古屋 野木ビルB2階 研究所「クローバーの3」】

野木ビルは名古屋にある低価格で理系の研究室によく使われるビルである。研究者専用ビルということもあり、室内には殺菌加工、防音加工などが施されている。しかし、見た目はさほどしっかりしたものでなく、そのためここに住んでいる研究者は「オカルト研究者」などとからかわれることも多い。その"オカルト"ビルの地下二階の扉には「クローバーの3」という木札が貼り付けられてある。その中で今、世界の観念を変えるような発見がされていた。

「これが...コア...?」

「うん。俺の仮説が正しいんだったら、コアは全ての物質の素材に成り得るはずなんだ。」

鏑木隼人かぶらぎはやとはそういうと近くの縦約1.3m、横約1mの長方形の機械の方を向く。その機械には「スキャナー」というメモ書きの付箋が貼ってあり、昭和時代、平成時代、令和時代によく使われていた「プリンター」のように「スキャナー」を操作するタッチパネルが付いている。鏑木はそのタッチパネルに椅子の設計図を読み込ませ、スキャナーの右についてある容器に「コア」と呼ばれている青銅色の粘性の液体を流し込んだ。


数分後、「スキャナー」からは設計図通りの椅子が出てきた。

「鏑木さんこれって!」

「おう、成功だ。」

鏑木はそういうと安堵や感動を全て手元のコーヒーと一緒に飲み込み、ほうっと一つ溜息をついた。


鏑木隼人は研究者である。理系では超一流大学の東京理工専門学校を全体2位の成績で卒業、その後東京理帝大学院に進学し首席を修めた。その鏑木が25年かけてやっとモノにした研究、それが「コア」研究であった。その「コア」研究についての概要をまとめると以下のようになる。

・すべての物質は「コア」から派生させることが出来る。

・「コア」からすべての物質への派生も可能である。

・その派生方法には「スキャナー」という機械を使う。


この説は学会から矢の雨のように非難を浴びた。「コア」などというすべての物質の共通項に当たるようなものはこの世に存在するはずがないという批判がそのほとんどであった。

2083年12月22日午後10時30分。


その批判が根元から崩れ去ろうとしている。

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