第2話-3

【2189年10月12日午前3時8分】

【河原木宅】

「クローバーの3の医療部の草金くさがねと申します。」

「お母さま、我々クローバーの3の医療部、最善を尽くしましたがお嬢様河原木ゆいさんの命をお救いすることが出来ませんでした。大変申し訳ございません。」

「え?...なにかの間違いですよね?広い日本の、広い名古屋の中で突如物を喰う生物が現れてそれが人間を一人だけ食べ、その子がゆいだなんて...」

「お母さま、」


「嘘ですよね!?」

「ありえるわけない!!」

「そもそも、あなたたちクロ3の医療部がなんで治せないのよ!?」

「何のためにあなたたちが大量のコアを持っていると思ってるの!!」

娘をなくした河原木かわらぎ佐紀さきが行く宛てのない怒りをクローバーの3の医療部にぶつける。行き場のない怒り。心の奥の方に溜まっていくような、もやがかかっているような、そんな怒り。普段から溜まっているその怒りのみが今の河原木佐紀にとっては言葉を発する原動力となっている。

「お母さま、娘さんの携帯の待ち受けご存じですか?」

「いいえ?それと娘の死と関係ないでしょ!」

「家族写真です。お母さまのこと、お父さまのこと、社会に出て遠い存在になりながらも思ってらっしゃいました。そのゆいさんはお母さまが悲しんでこれから生きていくのを望んでいらっしゃるでしょうか。天国でゆいさんを悲しませるおつもりですか?」

「だって...だって...」

「我々!人は!」

「現実を背負って今を生きるしかできないのです。」

草金千穂が一言ずつ言葉を噛み締めるように、

「司法解剖に協力して下さいますね?」

「いやよ!!絶対に!!」

河原木佐紀は残酷な現実を振り払うかのように髪を横に激しく振った。

「お願いします!犠牲をこれ以上出さないために!!原因究明のために!!」

「絶対にいや!!」



__2日後、河原木佐紀はクローバーの3の司法解剖に応じる旨の許可書を出した。


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