第9話 世紀末の魔術師(後編)

秘宝は海に落ちた。私のせいで。いいえ、秘宝を盗んで迂闊に空を飛んでいた怪盗のせいで。

それが昨夜の話。そして今、最悪の夜明け。

だと思っていたけど、例のスケボーの子アーサーくんが秘宝を回収していたわ。ラッキー!

秘宝は傷が無いか確かめるために急遽展示を取りやめて、船で東京へと持ち運ばれることになったの。商談に来ていた私達も一緒に乗っていけることになったわ。しかもアーサーくんと一緒に。もうこれ私への誕生日プレゼントよね。

ちなみに他にも同乗者がいたわ。祖父の遺品で秘宝の図面を持っているお菓子屋。素晴らしい。ラス様グッズ持参なら大歓迎。

ただ真ん中が破れてるし(ぞんざいな扱い!)、そもそも図面の秘宝と実物の秘宝が微妙に宝石の有無が違ったり(パチもんじゃないの?)ちょっと怪しいけどね。

ところがどっこい、そこは私のアーサーくん!

「秘宝は2つあるんじゃない?」

最初は私も聞いて『子供らしい無邪気な発想』って笑ったけど、よく見たら図面の秘宝の輪郭が合わない。つまり元々は大きな紙に2個描かれていて、真ん中の大部分が破れているから、1つの秘宝に見えたんじゃないか説が濃厚になったの。

『ちょっと、大事なラス様グッズの管理不行き届きは許さないわよ!』って内心叫んだけどね。聞いてる、お菓子屋?

そんな私のテンションは、またまたアーサーくんによって乱高下することになったわ。アーサーくんが秘宝をいじって、底の鏡を取ってしまったの。思わず懐の拳銃を取り出しそうになったけど、どうやら簡単に外れる構造の鏡なんだって。でもそれはそれ。私の心臓へのダメージの慰謝料は高い。

って一瞬怒った自分を後で呪いたくなったわ。何故なら、アーサーくんが部屋を暗くして鏡にライトを当てた瞬間。私の目の前に衝撃の光景が映ったの。

それは鏡に反射した光が映したお城。(この現象は宝石商が『日本古来の技術の魔鏡だ』って解説していたけど、アンタの手柄はどうでもいい)

キタわね。これ確実にそういうことでしょ? もう1つの秘宝はここにあるよって。

ちなみにお菓子屋は図面と一緒にあった古い鍵も取り出したわ。これ確実に2個目のエッグの隠し場所の鍵じゃん。最初から出してよ。


その後、お菓子屋の提案でお城に私たちを同行させてくれることになったわ。

全てがとんとん拍子に私に都合よく突き進んでいく感覚。本当に最高! しかも人生初の豪華客船でのクルージング豪華な個室付き。あとは部屋にラス様の写真を置いて、これで私の部屋って感じね。

私が写真立てとオーシャンビューに満足していると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきたわ。誰かお客さんかしら?

違った。煽りカメラだった。

ドア開けた時の女性の驚いた表情が撮りたかったみたいで、すぐに帰っていったわ。意味が分からない。日本人の男ってマトモなの少ないのね。怪盗にしかり、宝石商にしかり。マトモなのアーサーくんだけ。


なんて思っていると、しばらくしてまたドアノック。今度はアーサーくん(と女子高生)からの女子会のお誘い。なんて素敵なお誘い。

踊りたくなる気持ちを抑えて私が準備を始めると、女子高生が何かに気付いたわ。

「あっ。もしかしてそこにあるのは彼の写真?」

この娘、今なんて言った? 彼? 彼氏? なんて恐れ多い。ありがとう!

でもここでテンションガタ落ちの事実に気付いてしまった。

それは『日本人は写真立てをよく見る』っていう事実。美女の部屋よ? 普通、他に見たくなるものってあるでしょ?

正直に言うと私は隠れラス様ファン。というより、知られるとドン引きされるから周りにバレたくないのよね。オタバレみたいな感じ。

希望的観測かもしれないけど、女子高生とアーサーくんにはバレてないと思うの。

娘は白黒写真見て“彼氏説”出したくらいだから、しっかりとは見えていなかったとしか思えない。何も言わなかったアーサーくんもそう。

だけどあの煽りカメラは駄目! 映像見返されたら…バレる!


しかも後で会った煽りカメラ、ロマノフ王朝の指輪を雑なペンダントにして首から下げていやがったの。本当にストレス。何がしたいのか分からないけど、これ見よがしに着けて私の前に出ていきやがったわ。もうこれバレてるわね。ラスオタバレ。あとで私のこと馬鹿にするつもりだわ。

殺すしかない。私のラス様ファンとしての品格・プライドを汚い足で踏みにじったクソ野郎を。


その夜。私は行動に出たわ。

7時29分。煽りカメラの右目をショット。ザマァみろ。あとはラス様グッズを取り戻すだけ…あれ? 首に無い…

部屋中を漁ってみたけど、やっぱり無い。ひょっとして枕の中に? って思って切り裂いたけど、やっぱり無い。

やられたぁ。コイツ、指輪無くしたのね。

まぁビデオテープだけは確保できたからオタバレせずに済むし。最初から指輪は知らなかったものだって思えば、プラスマイナスゼロだから良いけど…まさかテンション最悪で今日という日を締めくくることになるなんて…はぁ。ショック。


その後、ヘリコプターで警察参上。私はすぐに容疑者から外れたからいいけど。

それよりアーサーくんがトンデモ発言を提起してくれたわ。

「いろんな国でロマノフ王朝の財宝を専門に盗み、いつも相手の右目を撃って殺してる悪い人がいるって知ってる?」

アーサーくんのこの話がキッカケで、今回の事件はロマノフ王朝専門怪盗が犯人なんじゃないかって警察が考え始めたの。うん正解。

えっ? それは私にとって都合悪いんじゃないかって? その程度は大丈夫よ。今まで一度も捕まったことないし。正体バレしなけりゃ気にしないわ。

それより重大ニュースがあるじゃない。

アーサーくん。私、あなたの正体が分かったわ。

あなた、私のファンね。正直言って日本じゃドマイナーな怪盗である私のことをこんなによく知ってるなんて。あなた私のファンだったのね! そうじゃなきゃ小学生が私のこと知ってるわけない。説明つかないじゃない!



そして翌日、タクシーとリムジンでお城に到着。

お城にインして執務室でラス様写真を発見。

「お父さん、ラスプーチンって?」

「いやぁ、俺も世紀の大悪党だったってことくらいしか」

なんか明智小次郎がラス様の悪口言ってるんですけど。はぁ!? ラス様が大悪党? 殺すわよ! 

えっ? アーサーくんも昨日私の悪口言ったって? 私は良いのよ。本当に悪い人だから。でもラス様のことを悪く言うのは絶許!


なんて私が怒りに震えてるところに、やっぱり作用するのは私の清涼剤アーサーくん。

あっさりと隠し部屋のボタンを発見。ロシア語で何かパスワードを押せば秘宝への道がひらかれるみたい。

正解はアーサーくんと私(とお菓子屋)の合作。『Boлшебник кoнца века』。

日本語に直すと『世紀末の魔術師』。

結果は御覧の通り。地下へと続く階段が御開帳。階段を降りて真っ暗な一本道を進み、かすかな物音を聞きつけアーサーくんが離脱。

私はこの隙に、さっきラス様の悪口を言った明智小次郎を殺す銃の準備を…

「あっアンタは!?」

宝石商に銃を見られた。もちろん殺したけどね。

で、戻ってくると何故かアーサーくんが子供たちを引き連れて合流したわ。どっから湧いたのこの子供たち。日本って地下に子供湧くの? 

そしてこの賑やかパーティで道を進むと、行き止まりに到着。あれ、道を間違えた?

なんて心配ご無用♪ 私にはアーサーくんがいるじゃない。行き止まりの壁にライトを当てればあら不思議。壁の向こうのドーム型の部屋に到着。奥の棺に鍵を挿して、秘宝を抱いた遺体を発見!

ついに2個目の秘宝が。

ありがとうアーサーくん。短い付き合いだったけど、私は被法を盗んで明智小次郎を殺したらさっさと逃げます。


と思っていた矢先。秘宝が空っぽ。なんとういうことでしょう。

じゃなかったわ。どうやらこの秘宝はもう一つの秘宝を中に入れて、2つで1つの秘宝になるタイプだったみたい。

はぁ、秘宝がここにあれば答え合わせができるのに。

「秘宝ならありますよ」

ここで同行していた警官が鞄から秘宝を取り出したわ。梱包材にも包まずに。はぁあああ!? ラス様グッズを、なんて雑な運び方してんの、このド素人が!

結局、エッグは合体完了。よし盗もう。

なんて私が思った時、アーサーくんが秘宝を持って近くの台座に走り、私たちに何やら指示をし始めた。

私はアーサーくんに言われたとおりに蝋燭の火を消し、懐中電灯を台座にセット。アーサーくんはエッグを台座にセット。

するとアメイジング! Yes I know it's Love な出来事が起こった。


この感動は言葉に出来ない。というわけで割愛。

感動が落ち着いた頃、ロシアの書記官はロシアのエッグ所有権放棄を宣言。ってことは、この時点で私の物決定!

「何はともあれ、一件落着!めでたしめでたし!」ということであとは戻るだけ。

秘宝を盗んだら、あとは銃や爆弾、ガソリンで道を塞いで逃げるだけ。


「ちょっと待ったぁ!てめぇだけ逃げようったって、そうは問屋が卸さねぇぜ」


甲冑だらけの部屋に響く明智小次郎の声。まさか、もう追いついたの!?

驚いて壁に隠れて銃を構える私に、“奴ら”は名推理をたたみかけた。

警官や煽りカメラ、宝石商の口から咲き乱れる推理の数々。


えっ? 煽りカメラ? 私が殺したはずの!?

怖くなった私は銃を乱射しまくったわ。

そんな私の前に現われたのはアーサーくん。

1人で色んな声色を操って、私を怖がらせていたみたい。イタズラにしてはお茶目じゃないわ。

それからもアーサーくん、まるで見ていたみたいに私の犯行を言い当てるったら言い当てる。

はぁ、ここまできたら仕方がないわ。可哀想だけど、アーサーくんにもここで死んでもらわなきゃ。

残る銃弾は1発。これで…終わりよ。ショット!


だけどアーサーくんの右目眼鏡の前に弾かれる銃弾。へっぁ!? 何が起こったの!?

怯んだ私に追い打ちをかけるように、アーサーくんは何か靴を触り始めた。

これは油断できない! と、“うつむ~く~”ながら、私はマガジンを交換して銃を構えた。

そこにどこかから逆転の女神的なトランプが投げられ、発砲が阻止されてしまった。

さらにアーサーくんが金属の塊をキック。エゲつないスピードで私にヒット。


こうして、私は倒れて気絶し…



謎は全て解かれた



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