『雨の日の光彩』

水白 建人

 

 ひとかおをさ、じーっとてたらへんでしょ?

 しゃしんはいいの。スマホでって、スマホにぞんしておけば、ずーっとてられる。

 これなら、ふつうのじょちゅうがくせいだよね。スマホいじってるだけだもん。

 わたしはそうしんじて、せんたかさにスマホをかまえるんだ。

 はなしたまどのそばにって、ハイアングルからシャッターをしてるヒカルくんをていたくて。

 くさいろこうていあせかきながらボールをってるサッカーより、あいつのこうふんしてあかくなったよこがおのほうが、しかったから。

 あいつがひとりでいるうちに、わたしはスマホにうつさつえいボタンをゆびさわった。

「アヤちゃん、ぼくをってるの?」

 げ、づかれた。

がいになってた?」

らない。わたし、アルバムてただけだし。だいたいるわけないじゃん」

「まあ、わざわざしゃたいえらばないよね」

 ヒカルくんはくびげたいちがんレフをらして、じょうだんっぽくった。

 ――またやっちゃった。ちがうの。れないだっておもわないで。

 ったのはほんとう。わたしはしゃしんはいったばっかりだったから、ヒカルくんのこと、そのときはよくらなかったんだ。

 さっきみたいなかたですっぱりったわたしを、ちびでぶっきらぼうなしばいぬみたいだってからかわれたりもするわたしを、それでもわらって、れてくれる。まっすぐで、しゃしんバカで、ちょっとかっこいいところもある――。

 なつのふとしたときに、そんなヒカルくんをしきしてるわたしにった。

 あきいまこのときに、こんなヒカルくんをきになったわたしはこまっている。

 おことわりしておきながら「やっぱりお?」なんて、いまさらえっこないもん。ともだちそうだんとかもずかしいよ。

「あ、シュートするのかな? よーし、ったしゅんかんってやる。けー!」

 わたしもヒカルくんみたいななおになれたらなあ。

しゃしんしゅうごうー!」

 ちょうんでる。すぐちかくにあるしゃしんしつからだ。

「いいところだったのに。ちぇ」

 ヒカルくんはかたとしてしつはいってく。わたしもヒカルくんのあとにつづいた。

 なかながつくえをふたつならべたしつなかでは、よんにんいんたちがあきれがおをしていた。みんなのまえで、ちょうふくちょうがまたいつものやつをはじめたんだ。

こんしゅうもやるぞ、しゃしんたいけつ!」

 ちょうがそうって、となりのふくちょうしんたっぷりなかんじでめがねをうごかした。

げいじゅつきそうもの。たけるぶんるようにわかる」

りょうすけ、カメラのメンテはじゅうぶんか?」

ふくちょうたるおれそくはない」

「よし」

 ちょうはぱん、とをたたいた。

あきさかりだからなー……こうがいかけて、『あ』ではじまるタイトルのしゃしんってこよう。『あきぞら』とか『あかねいろらくよう』とかな」

「やっぱりチームせん?」

 せんぱいいんがたずねると、ちょうは「もちろん」とうなずいた。

しゃしんでんとうまもっていかねばな」

 ぶんちょうになってからはじめたくせに。

「というわけでチームけだ。みんな、このはっぽんばしをひとりいっぽんずついてくれ」

はやくしよう。いでレンズをくもらせてしまいそうだ」

 ちょうにぎったばしたばに、ふくちょうがさっそくした。わたしたちいんのほうも、かたないなあってかおをしながらくじをいていった。

 きょのわたしはうんだった。

「――せんしゅうだってヒカルくんとべつべつだったのに。かみさまのバカ……」

 わたしはがっこうからじゅっぷんくらいあるいて、かたがわにしかどうがないなかみちでしゃがみむ。ちょうはすっかりねっけつなスイッチがはいってる。せんぱいいんふたりも、えるようなとおくのやまなかよくカメラでのぞいててたのしそう。

 わたしのぶんくだざかだ。みずわりにいろいななみててるんぼをろしながら、げやりにパシャリ。タイトルもふつうに『あきんぼ』でいいや。

「あれ? アヤちゃんだ」

 こんなゆーうつなときにだれよ!

「ってヒカルくん!?」

 うそ、なんでこっちにいるの? ごうせい

「もしかしてアヤちゃん、しゃしんるのにちゅうでみんなとはぐれた?」

「それわたしのせりふ。はぐれたの、ヒカルくんのほうでしょ」

「あっちゃー……」

 ヒカルくんはまわりをきょろきょろて、はにかんだ。

かなふくちょうたちも、あかとんぼをってきてるとおもったんだけどなあ」

 もう、しゃしんバカ。

「で、あかとんぼはれた?」

「まあね」

「ふうん……よ、よかったじゃん」

つぎはなにをしゃたいにしよう?」

「――ヒカル! なんだってここにいるんだ」

 ちょうあしでやってきた。

「む、さてはりょうすけおくってきたスパイだな?」

じまちょうー、スパイだなんてあんまりですよ」

「ヒカルくんはふくちょうチームからはぐれただけですから」

「そうせかけたいんだろう。どうやらりょうすけのやつ、しゃしんたいけつにかなりねつはいってるらしい」

 ちょうのほうこそれいせいじゃなくない?

「じゃあなヒカル、われらがふくちょうにはしっぱいしたとつたえてくれ」

「ちょっとちょう! あっちけ、みたいなかたしなくてもいいじゃん!」

おれしゃしんたいけつしゅうちゅうしたいんだ。スパイわくのあるものちかくにいてはかなわん」

いしあたま!」

「いいんだアヤちゃん。またしつでね」

「ヒカルくんまで……!」

 ヒカルくんのとなりにいられるチャンスだったのに、もうわり? そんなのってない!

 だからわたしは、わざとちょうかんがえにってやるんだ。

「……そんなことってー、こっそりわたしたちのあとをついてくるでしょ」

「あ、アヤちゃん?」

ちょうー。こうのスパイをほうっておくのはまずいとおもいまーす」

たしかにそうだな。おれとしたことがうっかりしていた」

「なのでわたしがせきにんってヒカルくんをかんしたいとおもいまーす」

「すまんなアヤ。よし、まかせたぞ」

「はーい。さ、こ?」

 わたしは調ちょうよくヒカルくんのそでっぱった。

 いいねわたし! でも、ああ、きんちょうしてけない……。

 ごういんじゃなかったかな? あるくのはやすぎるかな?

 スパイみたいにっちゃったの、あやまったほうがいいかなあ!?

「ねえアヤちゃん」

「なによ」

「さっきのって、ぼくのかたしてくれたんだよね」

「べ、べつにっ」

「ありがとう、アヤちゃん」

「……どういたしまして」

「だけどぼく、ほんとうにしてないよ。だから、じまちょうのところにもどりたくなったらいつでもってね」

ぜったいわない。しゃしんたいけつとかどうでもいいし」

じまちょうかなふくちょうも、あんなにがってるよ?」

「ひとりくらいサボってもいいでしょ。どうせらいしゅうもやるんだし」

 やっとドキドキがおさまってきた。わたしはあるくペースをとして、ヒカルくんのとなりにうつった。

 そでからもはなしておこう。ヒカルくんがりょうでばっちりしゃしんれるように。

「わたし、しゃしんきでしゃしんはいったんじゃないんだ」

「そうだったの?」

がっこうそとで、ゆうにだらだらできるわけしかっただけ」

 いまはもっと、もーっとしいものができたけど。

「だからしゃしんたいけつってわれても、やるとかあんまり。あ、みんなにはないしょね?」

「うん、やくそくするよ」

「……わたし、わるかな?」

「ううん。ぼくはありだとおもう」

 ヒカルくんはいちがんレフをもとせる。

「レンズをとおしてかいってきゅうくつだよね。そんなかいにとらわれない、アヤちゃんののびのびしたかんせいにぼくはあこがれてるんだ」

「おってやつ?」

おおまじめだよ。アヤちゃんは――」

 わ、わたしが、なに!?

「――あめだ」

あめ? あめおんなっていたいの!?」

ちがうよアヤちゃん、ってきてるんだって」

 われてみれば、アスファルトのねずみいろてんてんくろくなってきてるがする。

 あ、いまおでこにつめたいのがたった。

れてるのにどうして? うわっ、どんどんつよくなってきた……!」

てんあめだね。あっちのバスていでやりごそう」

 こんはヒカルくんがわたしのそでをつかんで、リードしてくれた。

 うれしい、けど……どうしてこんなタイミングでるのよ。てんほうのバカ……。

「ふー、いつでもバスていのベンチにすわれるのは田舎いなかのいいところだね」

「セーラーふくがびしゃびしゃ……」

 しろにしといてよかったあ。

「アヤちゃん、ハンカチってる? なければすよ」

「あるからへい

「あーあ、これじゃしばらくはうごけないね」

 ヒカルくんはつまらなさそうにシャッターをした。

あめしゃしんわるくないけど、もっとこう、ぐっとくるしゃたいりたいよ」

「たとえばどんなの?」

「アヤちゃん、とか」

「わたし!?」

「だって、きなひとだからさ……」

「へ、へー。まだきなんだ」

 わたし、おもいっきりっちゃってるのに。

「……きゅうへんなことって、ごめんねアヤちゃん」

「ヒカルくんはわるくないから」

 それからしばらく、あまつぶがバスていをたたくおとだけがしていた。

 わたしはたなくなって、おもわずくちひらいたんだ。

「――どうしてきなの?」

「え?」

 いちゃったー!?

「……さっき、じまちょうまえせてくれたかっこよさに、したたかさ。それにのびのびしたかんせい。そういうばなみたいなところがきで、あこがれてるんだ」

 ヒカルくんはあめしでキラキラしてるそらげた。

 いちがんレフをしんけんかかえながら、それじょうしんけんなまなざしで。

いちられたって、きらいになるもんか。アヤちゃんはいつも、一眼レフこいつのファインダーからぼくのうばってるんだから」

 ヒカルくんのまっすぐなことに、わたしもしんけんになりたいっておもったんだ。

「……じゃあ、さ……る?」

「いいの?」

きなものをりたくなるち、わたしにもわかるし……」

「ありがとうアヤちゃん!」

 ヒカルくんはさっそくわたしにまるいレンズをけた。

「うーん、どういうアングルにしよう?」

 うずうず。

かおきはそのままー……やっぱりセンチくらいみぎで」

 そわそわ。

「どこをっても、になりそう……まようなあ……」

「あーもう! カメラどけて!」

 わたしはじれったくって、ヒカルくんのかたをぐっとせた。

 こっちだって、きなおとこしゃしんりたい。わたしはほんのいちまいだけ、ゆうしたんだ。

 ――はじめてのツーショットを、スマホのインカメラでパシャリ。

 ピントもアングルもにならない、ゆめにもえがいたしゅんかんがそこにうつっていた。

「こんなかんじで、おもいっきりって!」

「そ、そうだねアヤちゃん。でもこれ、すこずかしいな」

「ファンサービスだからいいの! ほら、さつえいかいつづき!」

「はは、アヤちゃんらしいや。――アヤちゃん、て」

あめんできたね」

「そうだ、いまならあめにじどうれるかも……!」

「ちょっとヒカルくん、わたしのさつえいは?」

「ごめんアヤちゃん!」

 ヒカルくんはそうって、ひとりでバスていした。

「すぐにもどるからっててー!」

「もう……バカ」

 きなおんなほうっておくんだからさ、そーっとってやるくらいしてもいいよね?

 わたしはそうしんじて、せんたかさにスマホをかまえるんだ。

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『雨の日の光彩』 水白 建人 @misirowo

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