戯曲「ハッピーエンドには早すぎる」

澤根孝浩

第1話 【漫画世界】出逢い-春の公園-

 1 春の公園


   ●音響、爽やかな曲、フェイドイン。(しばらく後ろで薄く流れる)

   ○照明、上手エリア、フェイドイン。

   舞台上には瞬と如月。


如月「先輩、すいません、呼び出したりして」

瞬 「いや、全然。久しぶりだな。俺の卒業式以来か」

如月「あ、はい。卒業式の後にサークルのみんなでカラオケ行ったのが最後です」

瞬 「そうだった、そうだった。懐かしいな。天文サークルのみんなは元気か?」

如月「元気いっぱいです。来週、みんなで松本まで行って星を見に行くんです」

瞬 「へぇ楽しそうでいいな」

如月「先輩はどうですか? 社会人生活」

瞬 「なかなかたいへんだな。今は覚えることばっかりで」

如月「ですよね。すいません、そんなときに」

瞬 「それはいいんだって。で、どうした? 何か困ったことでもあったのか?」

如月「あの……すいません」

瞬 「うん」

如月「えっと……すいません」

瞬 「あはは。すいませんだけじゃわからないって」

如月「すいま……はい……」

瞬 「それにさ、そもそも、全然すまなくないよ。如月に呼び出されて、俺、嬉しい    もの」

如月「え?」

瞬 「俺、社会人になっても、もっとやれると思ってたんだよな。でも、いざ会社に入ったら、うまくいかないことの連続でさ。弱ってるときに如月から連絡もらって、嬉しかった」

如月「そんな私なんて」

瞬 「私なんて、何?」

如月「かわいくないし」

瞬 「かわいいよ、如月は」

如月「嘘」

瞬 「付き合ってほしい」

如月「な、なんで私のことなんて……からかってるんですか?」

瞬 「俺が付き合ってほしいっていうこと、迷惑だったか?」

如月「だって……私は先輩が好きで好きでどうしようもなくて……ダメもとで今日は告白しようとしたんです。それなのに」

瞬 「先回り」

如月「え?」

瞬 「先回りしたかったんだ。如月に言われるより前に男らしく告白したかった」


   泣き出す如月。


瞬 「何だよ? 俺、ひどいこと言っちゃったか?」

如月「違います」

瞬 「だったら、どうして泣いてるんだ?」

如月「嬉しい、嬉しいんです」

瞬 「告白したのは俺なんだぜ」

如月「私も先回りしたんです。先輩の気持ちを先回りして、嬉しいって言ったんです」

瞬 「そっか、なるほど。あはは」


   たま子登場。


たま「きさちゃん、よかったね」

如月「たまちゃん、ありがとう!」

瞬 「たま子じゃないか。なんだよ、のぞき見してたのか」

たま「ごめんなさい。瞬先輩がきさちゃんにひどいこと言ったら、びんたの一発でもしようと思っていました」

瞬 「信用されてないんだな、俺は。まぁ、びんたをされずに済んだってことか」

たま「そうですね。うふふ」

如月「私は一人で大丈夫って言ったんですよ」

瞬 「いいさ、別に気にしてない。結局、ハッピーエンドでみんな笑ってるんだし」

如月「そうですね。あはは」

たま「そうね。あはは」

瞬 「あはは……」


   三人、退場。


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