浮かんだそれは、あまりに罰当たりで少し笑ってしまった

 初詣を終えた帰り道、二人揃って歩く参道は人で溢れている。

 このあとは二人で屋台をひやかしてから、家に帰ってのんびりする予定だ。何か面白そうなものはないかな、とぼんやり眺めていると、若い子たちが「あの人かっこよくない?」と噂しているのが耳に入った。話している子たちの目線を追えば、それは俺の隣に戻ってくる。ああやっぱりな、と思うと同時に、胸中に浮かんだのは優越感。

 目を惹くこの人が、俺の横に立ってくれていることが、どうしようもなく嬉しい。休日ということもあって気が抜けているのだろうか、口角が上がりそうになったのを、意識して抑えた。


「ミケちゃんは何お願いしたの?」

「平和な一年になりますように、って」

「お、いいねえ」


 話題に上がったのは、ついさっき参拝したときの願い事についてだった。問いかけに対して、反射的に答えたそれは嘘偽りのないものだ。


「でもいいの?自分のことじゃなくて」


 今度の問は、答えるのに少し時間がかかった。素直に言おうとして、でもそれが少し憚られたから。


「……自分のことは、自分でどうにかできるじゃないですか。でも、世間の動きはそうもいかないんで」


 少し迷って口にした言葉たちに、嘘はない。けれど、一番の理由はそれじゃなかった。横に立つそのひとは「なるほどねえ」と言ったきり、それ以上の追及はしてこない。ばれていないのか、それとも気づいた上で触れないでいてくれているのか。後者の可能性が高いだろうと思ったけれど、俺もそれ以上その話をするつもりはなかった。


 触れないでいてくれているなら、それでいい。正月に、それも神社で話すようにな話題ではないから。

 ほんの少し顔を上げれば、澄んだ冬の空が広がってる。神様とやらはこのどこかにいるのだろうかとぼんやり思って、でもすぐに関係ないなと思考は完結した。


 この人の横に立つために、神になんか頼ってやるものか。

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あの人の背は、俺にとってずっと憧れだった。 琴事。 @kotokoto5102

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