冒険者ギルドにて

 「いってて……一体急にどうしたっていうんだ」


 突如として冒険者ギルド全体を襲った衝撃波。

 俺はそいつをもろに受けて壁に叩きつけられた。


 「ケイ、大丈夫?!」

 「何とかな……それより」


 リリアが差しだしてくれた手を掴みながら立ち上がった俺は、衝撃波の発生地と思われる方向へ目を向ける。


 そこには椅子から転げ落ちた一人の男と……その男の首元に剣を突き立てて脅している青年の姿があった。


 「お、おい。一端落ち着けよレックス」

 「リーダー……今どんな気分だ、さんざん弱い弱いって罵ってきた俺に首筋へ剣を当てられる気分は?なぁ!」


 レックスと呼ばれた男がそう声を荒げた瞬間、彼の身体から真っ黒なオーラが噴き出し始める。

 あのオーラには見おぼえがある。


 「リリア、あれって」

 「間違いなく裏路地の時と同じ……まずいことになる」


 リリアがそう言った瞬間、レックスの放つオーラが爆発的に膨れ上がったかと思うと、次第に彼の持つ剣に吸い込まれていく。


 「う、うわぁぁぁ」


 リーダーと呼ばれた男はその隙をついて大きな悲鳴をあげながら逃走を始めるのだが……

 レックスは男が逃げた方向に向かって思いっきり剣を振る。


 「死ねぇぇぇ!!」


 すると凄まじい風圧と共に巨大な斬撃が発生し、男の背中を容赦なく襲う。


 「ミミ!」

 「ええ、お嬢さま!」


 リリアの声を聞いたミミさんは斬撃と男の間に割って入り、結界のようなものを生成する。

 結界はレックスの作った斬撃を受け止めた後、限界を迎えたのか音を立てて割れてしまった。


 「悪いことは言わない。メイドさん、そこをどいてくれ」

 「それは出来ませんね。お嬢さまが担当されるこの町で、これ以上勝手なことをするわけにはいきません」


 あいつの意識は今こっちに向いていない……今不意打ちを仕掛ければあいつ拘束するチャンスだ。

 俺は【シンクロ】の力を使ってリリアにとあるイメージを共有する。


 共有したイメージを瞬時に確認したリリアは俺の顔を見た後、小さく微笑んで【武器化】の能力を発動させる。


 「戦術投擲」


 リリアの身体は持ち手から長い縄が伸びているクナイに変形する。

 俺はしっかりと縄を左手で持った後、右手にもったクナイをぶん投げる。


 「なっ!?」


 レックスは俺が投げたクナイに驚きながらも咄嵯に反応して回避する。

 だけどそれでいい……俺達の狙いはクナイで奴を攻撃することじゃない。


 「ケイ、僕の動きに合わせてその縄引っ張って!!」

 「言われなくても!」


 俺がそう言った瞬間、クナイに変形したリリアはレックスの周囲を回るように飛行し、持ち手から伸びている縄でレックスの身体を拘束する。


 「な、なんだこれ!うごけねぇ……」

 「悪いけど、大人しくしてもらうぞ」

 「くそぉ……急に出てきてお前ら一体何なんだよ、邪魔しないでくれよ」


 レックスは悔しそうにそう言いながら膝をつき、地面にうなだれる。


 「せっかくあの人から力を貰ったのに……やっぱり俺はダメな奴なのか」

 「あの人だぁ?……お前一体何言って」


 俺がそこまで言いかけた瞬間、突如冒険者ギルド入り口のドアが大きな音を立てて開く。

 そこには真っ黒なワンピースのような服を着た小さな女の子が立っていた。


 「レックスさん、そんなに気にすることないよ。今日は相手が悪かったね」


 あどけなく笑ってそう言う彼女に、この場に居る全員の目が釘付けになっていた。

 何故なら彼女の身体からはさっきのレックスの比にならないほどの黒いオーラが溢れ出ていたからだ。


 「君は……一体?」



 リリアの質問を聞いた少女は右胸に手をそっと添える。

 彼女の背中からはバキバキと肉がうごめく音が鳴り響き、真っ黒な何かがその小さな背中から顕現しようとしていた。


 「私の名前はティア、同胞お友達のレックスさんを迎えに来たの」


 ティアと名乗った少女の背中からは、その小さな身体とはアンバランスなぐらい大きな妖精の羽が現れていた。

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異世界で出会った女冒険者との相性が最強だったのでコンビを組んで同棲してみた件 アカアオ @siinsen

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