来世では結ばれるように -有栖視点-

栄養剤りぽべたん

第1話 来世では結ばれるように。

 -私は陽キャの仮面を被っている。それも何年も。

 幼少期に余りに人に無関心だった時、親と先生に注意されてから

『あぁ、私は異物なのか』と小さいなりに納得してしまい、それからは周りに合わせるように笑顔を振り撒き、積極的に人と関わりを持つようになった。


-ただ、親を心配させないためだけだった。それが変わったのは一人の女の子に出会うまで-


「…初めまして、天理です。趣味はゲームと読書。人と話したりは苦手です。よろしくお願いします」


-何かはわからない。ただ、彼女を見て、声を聴いて私は堕ちた-


 あまりに簡潔な自己紹介、それも無表情。それでも、私の心のナニかの琴線に触れた。

 それからは積極的に天理と関わるようにした。当然ながら仮面を被りながら。



-ドロドロとした感情を一切見せないように、気付かせないようにしながら-



 初めは関わってくる私を鬱陶しそうにしていた天理だが、徐々に私と話す時だけは無表情ながらも目から嬉しそうなのが見えてくるようになった。


 当然、私は今も仮面を被っている。もう被る必要もないかもと思いもするが、幼少から続けていたので表向きは陽キャ、所謂誰とでも仲良くするキャラを演じている。


 進学するとなった時も、私は当然の様に天理と同じ学校へと進んだ。

その頃には、天理は私にだけは感情が出る目以外にも、感情豊かな表情を見せてくれるようになってくれていた。


 進学した先では、天然物の”陽キャ”で『配信』をしている子がいた。

その子は色んな事に挑戦していて、世間では有名なのだそうだ。


-…私は一切興味はないが。-


 私がその子と関わっていると、段々と天理は少しづつ私を見る目にドロドロとした感情を乗せてくるようになってきた。


 私はそれに気付きつつも、仮面を被り続ける。

…彼女の荷物をバレないように漁ったりもしたこともあり、カッターが出てきた時はついお揃いのカッターを買ってしまって私もカバンに忍ばせてしまっているが。


 今日も周りに合わせて『配信者』のファンの振りをしていると、

「あ、ごめん皆!もう帰って準備しなきゃ・・・ペットの事も心配だからね、また明日会おうね!バイバイ!」


 そういって『配信者』はカバンを持ち、廊下へ飛び出していった。『配信者』を輪にしていた人は少し残念そうだが、配信で会えるだまた明日も会えるだなと話をしている。


 -…今日も私の天理は机に伏せて周りがいなくなるまで寝てフリをしている…-


 『配信者』が帰ったのをきっかけに、クラスメイト達は疎らに帰っていく。

クラスメイト達がいなくなり、今教室には私と天理だけ。


「天理ー!」


 声をかけるが、天理は顔をあげない。”陽の者”に熱を上げているように見せているから不貞腐れているのだろう。


「天理?今日は寝てるの?・・・もー、起きてよー!」


 今日はいつもより広く背中に手をあて、揺する。するとようやく天理は顔を上げる。



「…ごめん、寝てたの。皆いなくなるまで…」


 嘘だとわかるのでつい苦笑いしてしまい、私は誰も居ないのを再度確認の為に見渡す。

そして今日は一歩彼女の心に踏み込む事を決めた。


「いつも天理はそうだよねぇ、私以外にも友達作ったりしないの?」



 -…私も本当は一切天理以外いらない。-

仮面を被り、周りを騙し-


「…私は…有栖以外には友達を必要と思ったことないから。」



 -電気が走る。脳髄から甘美な痺れが全身に広がっていく。-

おそらく産まれて初めて心の底からの笑顔がここで出たのだろう。


「そっかー、私も天理が大好きだよ!もう皆いないよ?」


「…ん、いつもありがとう有栖。帰ろうかな。」



 ほんの瞬きの間の、彼女の不安そうな顔を私は見逃さない。

いそいそと机から教科書やノートをカバンに入れようとしている天理の肩に手を置く。


 「待って!天理。少し話しない?」


 つい、そんな顔をさせてしまった自分が許せなかったのもあるが力が入ってしまう。


「・・・いいよ、有栖だもん。この教室も私達以外いないし迷惑もかからないし。」


 -こみ上げてきた気持ちが抑えきれない。-


 帰ろうとしていて椅子を引いていたので、つい向かい合うように彼女の膝の上に座ってしまう。


-大胆すぎただろうか。いや、私は陽の者を演じている。きっと大丈夫。-


 「いやー・・・えっと、えへへ。今初めて天理の本音を聞けちゃった。それがすごく嬉しくてさーそれで・・・」


 そのまま私は天理に向かい合ったまま、延々と話し続ける。内容はない様なものだが、誤魔化す為もあるが、私は気付いている。


 私に友達以上の感情を、天理が持っていてくれていることを。


 今も私が、彼女を見ながら話していると無表情な顔が少し崩れ、耳が赤く染まっている。

 このまま天理が相槌を打っている姿を見ているのもいいが、私は天理の声を聞きたい。


「天理?おーい、相槌ばっかり打ってないで天理も何か話してよー!」


 その言葉でハッとする天理。可愛すぎる。



「・・・うん、ゲームの話とか今読んでいる小説の話とかになっちゃうけど・・・それでもいい?」


「もちろん!天理の話聞くの私好きなんだー!この間話してた続き聞きたいなー?」



「…あのね、この間の続きだと最後まで話しちゃうんだけど…有栖はそういった…ネタバレとか気にしないの?」



 文章も内容も大して興味がない。ただ、彼女が話してくれる事は一文一句覚えているが。



「いいよー!授業も寝ちゃうもん、小説なんて読めないから、天理から話振ってくれないと気になって夜しか眠れないよー!」


 ケタケタと笑い、仮面をつけたまま私は天理にねだる。


 少し呆れた様な顔をされたが、天理は先日から私にに話していたその小説を最後まで語り終えてくれた。




******************************




 気付けば周りはもう暗く、校庭や体育館からしていた部活動の声も聞こえてこない。

語ってくれた小説の内容は、私に勇気をくれた。メリーバッドエンドというらしい。

二人以外が不幸せだが、主人公とヒロインは結ばれて幸せになるというものだ。


「そっかー・・・最後は結ばれるけど、二人以外はいなくなっちゃうんだね。」



 私は立ち上がり、天理から離れる。少し寂しそうに、残念そうにする天理が愛おしい。



 「・・・ねぇ天理。私ね、ずっと天理が好きだったの。」



-ついに言ってしまった。もう引き返せない。-


まだ仮面をつけたままニコニコと後ろに手を組み、よっぽど私の告白が衝撃的だったのか唖然としている天理に追い打ちをかける。



「一目惚れかな?でも日本って遅れててさー、同性愛って変だーって皆に言われるじゃん?・・・でも、私今の小説の話聞いて決心ついたんだー!」



 陽キャの仮面を被ったきっかけも、周りに合わせる為なのだ。それならば-



 スッと天理のカバンを手に取り、ゴソゴソと漁りカッターを取り出す。

自分のカバンに入っているお揃いのカッターも、呆けたままの天理の前で取り出す。


 もう止められない。陽キャの仮面をつけたまま私は、魂の底からの言葉をはっきりと言う。


「もっと大っぴらに私はイチャイチャしたい!あんなことやこんなこともね!でも世間が許してくれないし-」




 一緒に次の世にいかない?




 もう私達二人以外誰も残っていない教室に響く心中を促す言葉。


 今の世間は異物を排除するのだ。それならば私達は排除されない世界へと旅立とうと、きっと天理も賛同してくれるだろうとニコニコと言う。


 ようやく全てが飲み込めたのだろうか、天理は私を見て、一言


 「うん。」


 ただ一言である。しかし、その一言は本音を初めて聞けた時以上の甘美な痺れが全身に広がっていく。


-もう止まらない、逃さない、私達は次の世へいく。-

 手に持ったカッターを、いつもの仮面をつけたまま天理に手渡す。




「よかったー!天理に断られちゃったらどうしようかなーってヒヤヒヤしてたんだよ?でもよかった、天理も同じ気持ちで居てくれて!」




 チキチキと、カッターの刃が出てくる音がふたつ、二人しかいない教室に響く。




「ここかな?首だよね?カッターって薄いから刺さらないだろうし・・・首だよね!・・・来世は大っぴらにイチャイチャできる世の中で一緒に居ようね!」


 そして私達は互いの首へと-


 カッターの刃が差し込まれる。ドバドバと、血が流れていく。

だが、私達は来世では一緒になるとつい先程約束をした。

 

 天理はもう意識がないのであろう。ピクリとも動かない。だが、私は意識がある。

最後に手を伸ばし、天理の手へと自分の手を重ねる。

「へへ…来世では一緒に、幸せになれる世界がいいね。天理。」



-意識が混濁していく-




『本日のニュースです。本日未明、○○高校にて女子生徒二人の遺体が見回りをしていた高校に勤める用務員によって発見されました。


警察の検分によりますと、その場に落ちていた刃物には互いの指紋しかついていなく、心中をした線で捜査を進めているとのことです。」




『クラスメイトによりますと「二人は仲が非常によかったが、その様なことをするとは思っていなかった」と驚きを隠せない様子で-』

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