第12話 見てもらえなくなる前に

 昼間の谷崎千は、やはり明るく優しい。

 そして、咲奈のことなど見もしない。


 千が咲奈を覚えていたということが分かった日以来、咲奈は真夜中のお茶会に呼ばれてはいなかった。


 千はそれよりも次の放課後のお茶会に向けて勤しんでいたからだ。

 プランを練っては、呼びたい子に招待状を渡していく。


 「やっぱり、私は呼ばれないのね。」


 あれほど真夜中のお茶会が嫌で、参加したくないと思っていた咲奈だったが、最近は少しおかしい。


 いつ招待してくれるのか。

 むしろ、招待されなくなるのが怖い。


 千のした酷いことよりも、千に少しでも覚えてもらいたい。

 その気持ちの方が、今は不思議と勝っていた。


 「谷崎さん、私のことを忘れていかないで。私を見て・・・。」


 咲奈の目線の先は、いつも千。

 いつも千はみんなに微笑みかけている。


 「私は?」


 千はそらを特別視して触れている。


 「私には?」


 千はお茶会のメンバーを選ぶ。


 「お願い。」


 お願い、お願い、お願い。


 放課後のお茶会が叶わないというならば。


 咲奈は机の中に手を入れた。

 何かが入っている。


 震える手でそれを引き出すと、それは薔薇の絵が描かれた招待状だった。


 「谷崎さん、私以外を見ないで。」


 咲奈は招待状を抱きしめると、千を見つめた。決して目が合うはずはないのに。


 咲奈はそんなことを思う自分が嫌で仕方がないし、なんてストーカーじみていることかと泣きそうになる。


 千にどんどん嫌われていく。どうせ昼間は見てはもらえない。


 だが、咲奈の心の支えは紛れもなく千だった。

 このようなことになるまでは。


 歪んだお茶会によって、その想いはさらに歪んでいく。

 咲奈も千も。


 いつになったらこの歪みがなくなるのか。

 千に見てもらえるのか。

 いつになったら二人の間に歪みは無くなるのか。

 千に見てもらえるのか。


 それは咲奈に分かるわけはないし、願いが叶うとも限らない。


 だが。


 「待っていて、谷崎さん。私は真夜中のお茶会に行くわ。どうせ叶わない想いなら。私は谷崎さんに全てを告白する。」


 咲奈は招待状を鞄にしまうと、凰華に連絡した。


 今日は用事ができて会うことはできない・・・と。


 「谷崎さん、最後になっても構わない。お願い・・・私を見て。」

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