第6話 甘く辛いお茶会

 深夜24時。

 薔薇の温室。


 放課後の雰囲気とは全く違う。

 夜は、怖い。

 それでも薔薇は美しく咲くし、月明かりは闇を切り裂く。


 「・・・谷崎さん。これはいつまで続くの?」


 咲奈は千に促されるまま席に着く。


 ティーカップからはキャラメルの香りがする。

 甘い香り。

 今夜はキャラメルティーなのだろう。


 「どうぞ?」


 咲奈は、カチャカチャとコップを震わせながら飲む。

 香りはするのに味は恐怖で全く感じなかった。

 咲奈が飲み干すのを見ると、千は口を開く。


 「いつまで・・・そんなの分からない。私の気がすむか、三島さんが壊れるか。そんなところじゃないかしら?」

 「・・・私は、そんなに谷崎さんを傷つけてしまったの?」

 「私、こう見えても負けず嫌いなの。異常なほどね。私が負けてるなんて許せないでしょ? 誰にも相手にされないような三島さんみたいな子に。私がこの地位を築くまでどれだけ大変だったと思っているの?」


 その言葉を聞いて咲奈は泣きたくなった。

 理不尽な理由でこんな目に遭っているからではない、千が自分のことをそのような目で見てたということに悲しくなったのだ。


 誰にも相手されない三島咲奈。


 「谷崎さん、私は・・・貴女にとって・・・。」


 千は脚を組むと、片手を紅茶に浸した。

 そして咲奈に向かって差し出す。


 「舐めて。甘いわよ?」


 首を振るだけ無駄だ。

 咲奈は跪くと、千の手を取る。

 ぽとりぽとりと甘い雫が千の手から滴る。

 咲奈は躊躇いながらも舌を伸ばして千の指を舐め出す。雫を拾いながら。


 甘いのかもしれないし、きっと光栄なことかもしれない。


 あれほど触れたかった千の手。

 大好きなキャラメルティー。

 なのに、こんなにも辛い。


 紅茶を全て舌で拭き取るように執拗なくらい舐め上げた。

 千に満足してもらって一刻も早く終わらせたい。

 

 千は身震いをする。

 舐められる感触よりも、咲奈がそうしていることに千は快感を覚えていた。

 もうこうなっては千を止めることはできない。


 千の手。

 咲奈の舌。


 本来、二人の触れるはずのないものが、このような歪な二人の関係によって成されている。


 「すごく気持ちいいわ、三島さん。楽しいお茶会ね。」


 「こんなの・・・嫌よ・・・。」


 今夜の悪夢は終わりを告げ、咲奈は逃げるように走って自分の部屋に戻った。

 カギをすぐさま閉めて、座り込む。


 しばらく声も出さずに泣いたが、ようやく落ち着きを取り戻すと、這うようにして自分のスマホを取り出した。


 そして画像のフォルダから、ある写真を開く。


 「谷崎さん・・・私、こんなに想っていたのに! 私、こんなこと何も望んでない!!」


 咲奈の見つめる先の写真には、谷崎千の姿があった。

 遠くから撮った写真。

 千は違う方向を向いて微笑んでいる。優しく、眩しく。

 

 咲奈が写真をスライドすると、何枚も何枚も千の姿がある。

 咲奈の歪んだ恋心がさせた、背徳行為。


 咲奈は写真を震える手でなぞる。


 「助けて、川端先輩。私はどうしたらいいの?」

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