第13話 少女は挑む、老いたるバケモノへ


旧:インフェリア迷宮国から→新:エレボス迷宮国に名称を変更致しました。


そして今回短めの代わりに次回投稿は、近日中(来週以内)に行います。


追記:ミスで原案投稿していたので修正入れました。

m(_ _)m

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麗らかな春の陽気が家を照らす今日この頃、ルミィは日に日に積もる苛立ちを抑えきれずにいた。


あれから一週間という時間が流れ、エルは調査の半分を完了させ瀕死の重傷を負っていたルミィの傷は、エルの貴重な薬品とケミィの献身的な治療により、完治するまでに至った。


しかし、彼女の心は癒えてゆく傷とは反対に、日を増す事に重くなっていくばかりである。


そんなある日の朝食である。テーブルに並べられたプレートを片目に、老眼鏡を掛けて新聞を読む憎たらしい老人の姿を見つめる。


もう我慢の限界にならないわ!毎度毎度、私の話を無視しやがって!今日こそ、あんの爺さんを完璧に問い詰めてやるのだから。


彼女ことルミナリア・ハープティは、勢いよくテーブルに手を着き意を決して彼に問い詰める。


「私の身体だってこの通り、完璧に治癒したわ。いつになったら貴方は英雄であったことを認め、治療薬の材料集めに協力してくれるのかしら!」


彼女の中でふつふつと煮えたぎっていた思いは、ついに爆発を迎え、怒りのままに彼を問い詰める。



そうこの一週間、少しの暇さえあれば彼女は俺の存在を問い詰め、そして治療薬の材料集めの旅へと誘ってきたのだ。

それを何とか今まで素知らぬフリをして流してきたが、どうやらとうとう限界に近い様だ。


「はぁ、朝から騒がしいガキンチョだな」


「騒がしいとはなによ!貴方が一週間も無視あるいは、話を逸らして来たからでしょう!そろそろハッキリしなさい!それと私にはルミナリアというちゃんとした名前があるのだわ」


ほんと懲りないやつだが、このまま無視し続ければ、彼女一人でもこの街を離れ、この世界屈指の怪物共に挑みに行くだろう。


それではさすがに困る。


仕方ない、こうなれば前々から考えていた計画を実行に移す時期だな。


エルは重い腰を上げて、兼ねてより計画していた彼女を納得させる案を告げる。


「よし、お前にひとつチャンスをやろう。なぁに簡単な話だ。今からギルドの修練場へ向かい、そこで一度でも俺の体に剣を当てたら、全て認めてお前に協力してやるよ」


「ほんと!?」


それは彼女にとって願ってもないことだった。

しかし、話はそう簡単なものでは無い。


「だがもし、お前が一太刀も俺に当てれず負けた場合は、大人しく負けを認めて里にかえるんだな」


その言葉の裏には、帰郷させるのに実力行使も厭わないというエルの強い意志を感じ取れる。

負けた時のデメリット、それは彼女にとって考えたくもない未来だ。


叔母の治療の目処が立たなくなる他、無断で里を抜けて来たこともあり、なんの成果も無しに落ち落ちと帰ることなど出来ないからである。


が、それを差し引いても年老いたとは言え元英雄が仲間になるのだ。

それぐらいの妥協は必要だろう。


「うっ!?まっ、まぁいいわ!その条件受けて立つわ。負けたからって後から無理ってのはナシよ!」


「はいはい、分かってますよお嬢様。それじゃ、皿を片付けて向かうとしますか」


「良し!約束だからね!」


決闘の約束を取り得たルミナリアは嬉々として片付けを手伝い、各々用意を終えてギルド横に併設されている修練場へと向かった。




不意に訪れた来訪者にギルドの面々は不思議そうな表情を浮かべる。

それもその筈だろう。別にエルトリア単体で現れるのは不思議じゃない、いつもふらっと現れては酒場で酒を飲んだり、修練場で若手の面倒を見ることもあるからだ。

だが今回は違う、先週、突如乗り込んで来た少女を連れて、エルトリアがやってきたからである。


それも両者闘うと言わんばかりのオーラを纏って。


『おい、あの姿って先週の少女じゃないか?』


『おいおいマジかよ!あの少女エル爺さんに挑む気か?』


『おいジェイル、それは有り得ねぇだろ?あんな感じでもエル爺さん元Aランクだぜ?』


彼らを後ろに外野の熱はふつふつと熱されてゆく。


「おい若いの、右端の辺り開けてくれねぇか?」


「「はい!」」


若い冒険者がそそくさと離れ、場所確保した両者は、二メートルの間合いを取り両者対峙する。


それは剣士にとって一手で相手の首へと剣が届くか届かぬか、そんな絶妙な間合いなのである。


「まず、ハンデとして俺はこの場から一歩も動かない、それに加えて闘気も一切使わないし、攻撃に転じることも無い。そして、お前の勝利条件は御前試合などで使われる有効打判定じゃなくていい。たった一度、「」それだけだ。」


口から放たれた三つのハンデ、そして勝利条件についての提示、ルミナリアはその舐めきった発言に呆れを示す。


「はぁ?私のこと舐めてるの?動かないハンデはいいとして、闘気すら使わないなんてどこまで私をバカにしてるのよ!」


それは幼子と大人が戯れるが如くぬるい条件、彼女とて剣士の端くれ、自身を一人の剣士と見るどころか、剣士と立ち合っているということすら、思われていない事が分かり憤る。


「あぁ実際お前のこと舐めてるし、俺が負けるとも微塵も思っちゃいねぇ。せいぜい一時間もお前の体力が持てばいいと考えてるぐらいだ」


憤る彼女のそれに対してエルは飄々と茶化し、彼女の心の炉心に燃料を投下する。


「いくら英雄と言ってもその偉ぶった態度、今すぐにでも吠え面かかしてやるのだわ。ふっ今から貴方が私に泣かされる未来を考えるだけで楽しみなのだわ」


「ヒュー!言うねぇガキンチョ。それならこの俺をぐうの音も出ない程叩きのめしてくれ!」


競りに掛けられた挑発の売り買いによって始まった言葉の殴り合いによって、場は徐々に過熱される。


「はっはっはっ!はぁ、、いやぁ興が乗るねぇ。おしゃべりはここまでにして、始まりの合図は.....まぁ、無難にコイントスで良いか?」


「ええお任せするわ」


「なら始めるとしよう」


エルの懐から取り出されたインフェリア王国銅貨が宙を舞い、銅貨が地に落ちる瞬間、戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

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