11話 ユージンは、階層主と出会う
11階層へ上る階段の付近が、
そのため
10階層には、9階層までと異なり魔物たちの姿はない。
大人しい草食動物の姿がちらほら見えるだけだ。
そしてそいつらは全て
その領域において圧倒的な力を誇る
――グオオオオオオオオオオオオオォォォ!!
咆哮が響いた。
スミレが、ビクリと肩を震わせる。
俺たちは階段の出口から10階層の様子を眺めた。
そこには一つの巨大な黒い影と、その周りをせわしなく動く小さな影があった。
「うわーーーー!!」
「た、助けて!!」
「立て直せ! 戦える者はまだ居るか!」
「無理です、隊長! 撤退しましょう!」
「駄目だ! 今度こそ、今度こそ、我が国が10階層をクリアしなければ……」
さっき
どうやら
「もう少し近くまで行って他のチームが
「ほ、本当に!?」
先程までの緊張感のない表情とは全然違う。
これは良い経験になるはずだ。
スミレがビクビクしているので、俺は手を引っ張ってあげて
蒼海連邦の探索者部隊と
これは『挑戦者の
この外に居る限り、
もっとも、無用な挑発や、手出しをした場合は別だ。
そのため挑戦しない探索者は、絶対に入ってはいけない。
……彼らが全滅しない限りは。
俺は、先の挑戦者の様子を眺めた。
見たところ蒼海連邦の探索者の怪我人はちらほらいるようだが、幸い死人は居なさそうだ。
劣勢であるし、撤退するのが無難だろう。
が、どうやら隊長の人の諦めが悪いようだ。
「ぐわぁっ!」
また一人、
砂埃がこちらまで届く。
巨人の時もあれば、
探索者が、
階層主が不在の間は、次の階層へ進む階段が無くなってしまう。
そのため階層主を倒さずに、次の階層へ進むことはできない。
現在の、10階層の
そして、
(黒の魔物か……)
『黒色』の魔物。
それは凶暴な性格をしていることが多い。
さらに、運が悪いことに今回の
こいつは
「お、おまえは一階層に居た学生探索者か! 我々に手を貸せ!」
隊長の男が俺たちを見つけそんなことを言ってきた。
(んなこと言われてもな……)
部外者である俺が『挑戦者の
「ゆ、ユージンくん、助けなくて大丈夫かな?」
スミレが俺の服の裾をくいくいと引っ張った。
「迷宮の
俺は空中に浮かぶ、丸い機械の物体を見上げた。
あの浮かぶ機械から、中継装置に映像が送られている。
中継装置から迷宮職員が、監視をしているはずだ。
「な、何をやってる! 我々を見捨てるのか!」
隊長の男が怒鳴る。
……救助の方法も知らないのか?
その時。
「我々は蒼海連邦に所属する者だ! 君らに助けを求める!」
と言って、隊長とは別の男が救難要請の旗を掲げた。
この様子も
あちらの彼は『天頂の塔』の探索規則を把握しているようだ。
(さて、正式に助力を求められた……か)
加勢をするかどうかは、探索者の自由だ。
スミレが期待半分、不安半分な表情で俺を見つめている。
(仕方ないか……)
「スミレ、行ってくるよ。そこで待っててくれ」
「う、うん! 気を付けて」
俺は階層主の
◇スミレの視点◇
巨大な
歩くたびに地面が揺れる。
ユージンくんは、落ち着いているけど大丈夫かな……?
「ぎゃああああ!」
また一人、探索者が吹き飛ばされた。
うわぁ……あの人、足が折れてる……。
(こ、怖い……)
迷宮探索ってこんな危険なんだ……。
9階層まで平和だったからわかっていなかった。
それが隊長の男のもとに迫った。
あ、危ないっ!
「隊長ー!」
「逃げて!」
「う、うわあああああ」
隊長の男の人は、足がもつれて逃げられない。
あ……あの直撃を喰らったら、死んじゃう!
ズドン、と丸太が振り下ろされた衝撃で、地面が大きく揺れた。
私は思わず目を閉じてしまい……恐る恐る目を開いた。
「おっさん、大丈夫か?」
そこには腰を抜かした隊長の男と。
巨大な丸太を
(え、えええええええええーーーー!!!)
「わっ! 凄っ!」
思わず声が出た。
よく見るとユージンくんの手が白く輝いている。
あ、あれで防いじゃったの……?
「おっさん、早く逃げろ」
「す、すまぬ……」
這うようにして、偉そうだった隊長の男の人は逃げて行く。
「他の人たちも階層主の
ユージンくんが怒鳴る。
「は、はい!」
「ありがとうございます!」
「助かった!」
怪我人に手を貸しながら、探索者さんたちは
――グガアアアアアアアア!
攻撃を止められた巨大な
足を大きく上げ、ユージンくんを踏みつけてきた!
「結界魔法・光の大盾」
ユージンくんの腕に、さっきよりも大きな光る盾が現れた。
どうして避けないの!? と思ったけど、どうやら他の探索者さんが逃げるまでその場にとどまるみたい。
つまり囮になるつもりなんだ、ユージンくんは。
巨大な
ガンッ! という車同士が正面衝突したような鈍い衝撃音が響いた。
「ユージンくん!」
思わず名前を叫んだ。
そして、彼の様子を見ると……。
(え?)
弾かれたのは、
ユージンくんは、その場に立ったまま微動だにしていない。
……いや、「小石がぶつかった」みたいにちょっとだけ眉をひそめた。
(え、えええ~……)
無茶苦茶過ぎるよ、ユージンくん。
「すげぇ……」
「うそだろ……」
「何者なんだ……」
――グガアアアアアアアア!!!!!!!
邪魔をするユージンくんに怒ったようだ。
腕を振り上げ、真下に何度も拳を叩きつけた。
ドガッ! ガンッ! ドンッ! ドガッ! ガンッ! ドンッ!!!
ユージンくんを、殴りつけ、踏みつけ、巨大な丸太を叩きつける。
地面が揺れ、大気が震え、爆発するような打撃音が鳴り響く嵐のような攻撃。
ユージンくんは、その場から一歩も動かずに、その攻撃に
いや……あれは『苦しそう』といえるのだろうか?
ユージンくんの横顔は『雨が降ってきたけど傘を忘れた』くらいの表情に思えた。
……よ、余裕があり過ぎる。
ユージンくんと
こ、これが……ユージンくんの結界魔法?
……ゼェ、……ゼェ、……ゼェ、
忌々しそうにユージンくんを見ながら、後ろずさりした。
そして11階層への階段近くに、どすんと座った。
「ふぅ」
ユージンくんは軽く息を吐き、パンパンと服に着いた埃を払った。
「終わったよ」
軽く微笑み、こちらに向かって歩いてくるユージンくんの姿に私は興奮で身体が熱くなるのがわかった。
(凄い! 凄い! 凄い! 凄い!)
私は思わず、彼に抱きついていた。
◇ユージンの視点◇
「ユージンくん、凄い!」
「おっと」
スミレが抱きついてきた。
柔らかい身体の感触と、高い体温が伝わる。
「カッコよかったよ!」
「そ、そうか?」
そんなキラキラ目で言われると悪い気がしない。
学園では、裏口入学した生徒とあらぬ噂を流され、肩身の狭い思いをしてたので、スミレのようにストレートに褒めてくれると嬉しい。
頑張ったかいがあった。
「うう……」
「痛てぇ……」
「しっかりしろ、回復薬は無いのか!?」
「もう底をついてます……」
「なんてことだ……」
ふと見ると蒼海連邦の探索者の悲痛な話し声が聞こえてきた。
どうやら負傷者の対応がまだできていないらしい。
(せめて回復薬くらいは十分な量を準備しとけよ……)
俺は脱力しつつも、放置はしておけないので怪我をしている探索者に近づいた。
「あ、あんた、さっきは助かった……もし手持ちの回復薬があれば売ってもらいた」
「
俺は怪我人の応急手当をしていた探索者の言葉を遮り、回復魔法をかけた。
すぐに怪我が完治する。
「あ、あの傷が一瞬で治った!?」
「あんた回復魔法まで使えるのか!? しかも凄い使い手だ!」
いや……あんたの怪我、ただの骨折だから。
さっき使ったのは、普通の中級魔法なんだけど。
まさか、中級回復魔法の使い手すら居ない
よくそれで最終迷宮に挑戦しようと思ったな。
「た、頼む。仲間たちも治してほしい!」
「わかってるよ、順番に回復するから」
その後、他の探索者たちにも回復魔法をかけてあげた。
幸い一番の重傷者も骨折程度の怪我だったので、すぐに治すことができた。
「お待たせ。これで全員の回復をし終えたかな」
「お疲れ様、ユージンくん」
他の探索者の救助は予定外だったが、スミレの表情を見るに何かしら得るものはあったようだ。
最初の探索としては上出来だろう。
さあ、帰ろうかと思った時。
「待ってくれ!」
「「?」」
誰かが俺たちの前に立ちふさがった。
「た、頼む! 我が国に力を貸してくれ!」
それは出会った時と正反対の態度で、土下座をする隊長の男だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます