第11話 連携~あるいは巨大怪獣の後始末の仕方など分からないので取り敢えずは爆発させておこうと思う~

 何とか、間に合った。そして、守れた。


 巨人の姿となってガンガルと対峙し、和樹が最初に抱いた感想はそれだった。


 コスモマンと融合した事で和樹とコスモマンの意識は一部で混じり合ったらしく、この巨人がどんな能力を持っているのかは感覚で理解できていたが、それでも初めて受けるガンガルの攻撃を防げるかどうかは実際にやってみるまでは分からなかった。


 ガンガルとスターブレイバーの強さはゲーム知識で比較できても、ゲームに出て来ないコスモマンの能力がどこまで怪獣に通じるかは未知数だ。


(この星を守りに来たって言うだけあって、ひとまず怪獣と戦える強さではあるみたいだな……)


 今の所、体のコントロール権は和樹にあるようだ。


 初めて巨人になった自分よりも、コスモマンが体をコントロールして戦うか、それでなくてもどう戦うかのアドバイスぐらいはしてくれた方がいいとは思うのだが、融合してからと言うものコスモマンは完全に沈黙を保っている。


 自分が本当は西尾和樹である事を知っていた事と言い、色々気になる所はあるのだが、今はとにかくガンガルを止めなくてはならないだろう。


 スターブレイバーを引き寄せるために街と病院を敢えて狙うような真似をする相手だった。少しでも野放しにしておけばまたどんな事をしてくるか分からない。


 全長四十メートル以上、体重もそれに応じた物になっているであろう体はだいぶ人間の物と勝手が違ったが、それでもコスモマンと意識を共有しているせいか、違和感なく動かせた。


 ガンガルがこちらに狙いを絞って火球を放って来る。


 和樹は火球の軌道を確認すると、地面を蹴って飛び上がった。


 巨人の体は半ば重力を操っているかのようにアクロバットに回転しながら火球をかわし、空中からガンガルの首を狙って蹴り付けた。


 人間の基準で考えれば空中でかなり無理な姿勢をする事になったが、それでも地面に降り立った時には二本の足で直立し、ファイティングポーズを取っている。


 ガンガルが怒り狂ったような方向を上げて鋏を向けてくる。


(お前の鋏は巨大過ぎて接近戦には向いていない……見た目に惑わされず火球を潜り抜け、迷わず踏み込むのがお前の攻略法だったな)


 大振りしてくる鋏。軌道を読むのは容易かった。ステップを踏むようにしてそれをかわすと、そのまま流れるように背後に回り込み、首を掴みながら殴り付ける。


 しかし掴んだ首はしばらくして振りほどかれた。力負けしている、と言う訳ではないが、想像していたほどには格闘で戦えていない。スマートな分、スターブレイバーほどのパワーはないのか。


 そう思った所で、地面に大きな黒い影が映った。


 投げ飛ばされたらしいザンダが勢いよく地面に落下し、転がってガンガルにぶつかってくる。


 二匹の怪獣が叫び声を上げた。


 ザンダを軽々と放り投げたスターブレイバーが突進するようにそのまま走って来て、追い討ちの拳を叩き付ける。タイミングを合わせて和樹も飛び蹴りを起き上がろうとしたガンガルに叩き付けた。


 二対二の格闘戦になった。


 初めて巨大ヒーローに変身した者と、初めて巨大ロボに乗った者だと言うのに、驚くほどコスモマンとスターブレイバーの息は合った。互いに相手が何をするのか、自分に何を期待しているのかが、手に取るように分かる。


 特性の違う巨像と巨人が、目まぐるしく役割を入れ替えながら、巧みに連携し、ザンダとガンガルを追い詰めて行く。


 これが、コスモマンが自分に体のコントロールを任せた理由か、と和樹は思った。


 和樹の中の天藤翔の記憶が、天藤勇との完璧なコンビネーションを実現してくれている。


(だけど、奇妙な感覚だな)


 今、天藤翔の体をコスモマンが借りているらしい。しかしその天藤翔の体に宿っている精神は、本人ではなく西尾和樹の物なのだ。しかもその記憶や知識は混じり合っている。


 本当は、自分は一体誰なのか。


 激しい戦闘の最中でありながら、そんな事を考える余裕すら和樹にはあった。それほどに勇が駆るスターブレイバーとの連携は、圧倒的だ。


「あの二体……完璧に息が合って……」


 結局逃げる事もせず、戦いの様子を神社で見守っていた亜美が呟いた。


 あの巨大ロボットの事も、二匹の怪獣の事も、そして突然現れた光の巨人の事も、亜美にはまだ何も分からない。


 ただ、あのロボットと巨人がタッグを組んで戦う限り、どれほど恐ろしい相手でもこの先も決して負ける事は無い。


 亜美には、そんな気がした。


 コスモマンの右手の宝石が埋め込まれた籠手のような物から光の刃が伸びた。


 コスモフラッシュセイバー。


 そんな名前の技らしいが、この体では人間に聞き取れる言葉を喋る事は出来ないらしく、ただ奇妙な掛け声を発しただけになった。


 光の刃が、ガンガルの両方の鋏を切り落とす。


 同時にスターブレイバーも前腕部から展開されたカッターで、ザンダの角を切り落としていた。


 二体の怪獣がよろめき、ぶつかる。


 行くぞ勇。心の中でそう呼び掛けた。


 コスモマンが胸の前で腕を交差させると、その両手が光り出す。そしてその光を右手の宝石に集中させると、右手を前方に付き出し、ザンダとガンガルに対して七色の光線を放つ。


 スターブレイバーもまた全身に青いオーラのようなエネルギーを迸らせるとそのエネルギーを右手に集中させ、巨大な青い光球を作り出し、それをそのまま振り下ろすようにザンダとガンガルへと叩き付けた。


 コスモスプラッシュ光線とブレイブフィストスマッシュ。


 スーパーロボットと巨大ヒーロー。


 この世界を守る運命を持つはずの救世主と、この世界には存在していなかったはずの救世主。


 その二体の必殺技を同時に受けた二匹の怪獣は、断末魔の雄叫びを上げながら、跡形もなく爆発四散した。

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