第42話 これからもずっと

「さてと……じゃあ、俺のことを話すね」


それはその夜のこと。こはくが眠りについてから、遥は居間でルナの隣に座ってから懐かしむように言った。


「まずはね……ルナ。俺はこの世界の人間じゃないんだよ」

「この世界の……?」

「分かりやすく言えばね、俺は異世界人なんだよ。その世界は魔法も貴族制度もなくて科学が発達した――そうだね、多分この世界から見たら夢みたいな世界なんだよ」


こうして自分のことをきちんと話すのは初めてなので難しいなぁと思いつつも真剣に聞いてくれてるルナのために遥は続きを話した。


「家族はいたけど……まあ、実は結構面倒くさい家庭でね。母親と父親がそれぞれ違う相手と不倫してたんだよ」


その言葉に、ルナは驚く。


まさか、遥も自身と似た家庭環境であったなど、想像も付かなかったからだ。


「あとは兄と姉がいたけど……まあ、恥ずかしい話仲が悪くてさ。俺はよく虐められてたんだ」


もっと言えば兄と姉に虐待されていたのだが……なるべくオブラートに包んで言うことにする。


優しい心の持ち主である、ルナに聞かせるには少しハードな内容なので、オブラートに包まないと言い難いことでもあった。


「俺がこの世界に来たのは3年前のことになるんだ。突然この”魔の森”に飛ばされたんだけど……まあ、その時はそれもう物凄くびっくりしたよ。いきなり異世界に飛ばされるなんて想像もしてなかったし」


学校の帰りに遥は突然転移させられた。


なので、家族とも別れの言葉などはなかったし、向こうでも失踪扱いになってるかもしれないが……その辺は実の所そこまで気にしていなかった。


というか、遥の家族の場合、面倒で適当に流していてもおかしくない上に、そこまで元の世界……家族には思い入れはなかったからだ。


とはいえ、いきなりの異世界転移は当然のごとく驚いたのだが。


「驚いたし、少し悩んだけど、でもどんな環境でも結局生きるしかないから、こうして魔物狩りをして3年近くの時間を過ごしてから……俺は運命の出会いをしたんだ」


隣で真剣に聞いてくれてるルナに微笑んでから遥は言った。


「ルナと出会ってから俺は本当に幸せな時間を過ごしてたんだ。心から人を好きになって……こうして結果として夫婦になれて本当に幸せなんだ」


ルナを救ったのは自分かもしれないが、本当にルナに救われたのは遥の方なのだ。


兄と姉からの虐待は割と過激で殴る蹴るの虐待は元より、面白半分で沸騰したお湯を顔面にかけられたり、爪を剥がされたり、寝てる間にミミズ入りの泥団子を食べさせられたりと散々だったのだが……まあ、そんな環境から突然異世界に転移させられて、色々張り詰めていた心を解きほぐしてくれたのがルナだったのだ。


全てを簡潔に語り終えてから隣のルナを見ると……ルナは目に涙を浮かべていた。


「やっぱり信じられないかな?」


普通なら、異世界から来たと話しても納得することは難しいだろう。


だからこそ……というか、そういう言い訳をして遥は自身のことをあまり人には話さないようにしていたのだが……遥のその言葉にルナは首を降ってから涙を流して言った。


「違うの……私、遥のこと何にも知らなくって……遥がそんなに大変だなんて思わなくて、私」

「ルナ……」


生まれて初めてのことであった。


自分のために泣いてくれる人なんて居ない……そう思っていた遥。


しかし、目の前の愛しい人は遥のために心から泣いてくていた。


自分のために泣いてくれる。


その事実が嬉しくて遥は泣いてるルナを抱きしめてから優しく言った。


「こんな俺のためにそうして泣いてくれる……だから俺はルナのことが大好きなんだよ。こんな俺だけどこれからもルナの側にいさせてくれるかな?」


その言葉に頷いてからルナは涙で霞む視界で遥を見て言った。


「私はずっと遥と一緒にいるよ……絶対に離れない」

「うん、ありがとうルナ」


しばらくそうして2人で抱きしめあってから、ルナが泣き止んで落ち着いて少し照れたところで遥は言った。


「だからね、昼間のルナの質問の答えとしては俺の両親は今異世界にいるってことになるんだよ」

「その……遥は会いたくなったりしないの?」


その質問には向こうに戻ってしまうのではという不安も隠れており、当然それに気づいた遥は微笑んで答えた。


「全然。だって今俺はルナと一緒にいられるこの世界が好きだからね。それに仮に向こうに戻ることになっても絶対にルナと離れることはしたくない」

「遥……うん、私も遥とならどこでも大丈夫。その……私は遥の奥さんだから」


えへへと笑うルナ。


そんな可愛いルナを見て遥は内心の悶えを隠しきれず思わず口づけをしていた。


最初は驚いたような表情を浮かべいたルナだったが、それを優しく受け入れてゆっくりと深く繋がっていく。


「愛してるよ、ルナ」

「遥……私も、遥のこと……愛してる。絶対離れない」


膨らむ想いは形を生して、遥とルナはより互いの心を重ねていく。


その後のことは語るまでもないだろう。

少なくとも、この件をきっかけに、2人の仲がより深まった……良い言い方をすればそうなり、別の言い方に置き換えると、イチャイチャ具合は強まったで完結することであった。








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