ボッチ2 ボッチファッションショー

 

 女神様の声が去ったあと、俺はここでやっと周囲を見渡した。


 今いる場所は小高い丘のような岩の頂上で、その周囲は森、そのまた奥は雪の残る山々だった。

 近くに人の居そうな気配は一切ないし、残念なことに如何にもな異世界風景もない。しかし日本には存在しなかったであろう大自然だ。

 異世界の風景と言うことを抜きにしても感動を覚える。


 俺は山か海か、遊園地か自然かを問われたら山や自然を選ぶ人種だから尚更だ。

 ……海も遊園地も一人では辛いしな……一人でも楽しめる風景は最高だ。そもそもインドア派だけど……。

 あれ? 頬が濡れている。今日は雨かな。



 兎も角、これからの予定を立てねば。


 まずはアイテムボックスのチェックを。


「え~と、中に入っているのは」

 とりあえずアイテムボックスの中身を全部出して行く。


 異世界な服が数セット、妙に綺麗な剣が一つ、普通に見えるパンが一つ、如何にも魔法な地図が一枚、食器調理器具が一式、如何にも魔法な水筒が一つ、テントらしき布の巻いたやつが一つ、分厚い本が数冊、その他用途不明の道具が数種等々。


 予想を遥かに越えるアイテム群がアイテムボックスに入っていた。


「凄いな、これ」


 何よりも驚きなのが、数よりもそのアイテムの質だ。

 鑑定しなくとも尋常ならぬ一品であることが見て窺える。仮に大した性能がなくても置物としてそこそこの値段で売れそうだ。


 試しに剣を鑑定してみると。


 名称:女神手製ミスリルの剣

 効果:所有者固定、再生、転移

 説明:女神の手で作られたミスリルの剣。魔法の杖としても使える。


「ミスリルってよくゲームに出てくるあれか。流石は異世界、ファンタジーだな」


 立派な鞘からミスリルの剣を引き抜くと、太陽の光を通すと静かな澄んだ美しい光を放つ。銀よりも銀らしいと思える材質だ。

 武器として使うのが勿体無いくらいである。


 まだ鑑定はしていないが、恐らくこれと同等のアイテムが他にも沢山。

 とんでもなく手厚いサポートだ。

 王国に転移出来なかったお詫びと言っていたが、もしかしてその王国とやらに転生していたらこれだけの物が貰えたりしたのだろうか?

 なんにしろ女神様には感謝しよう。神殿を見つけたら祈ってみるのもいいかも知れない。



 さて、アイテムの鑑定は時間がかかりそうだから使うときでいいとして、次ぎは何をしようか?


「そうだ、服を着替えよう」


 多分この服、学校の制服じゃ目立つだろうし、異世界の服と言うものを着てみたい。

 俺は格好から入る人種だしな……まあ格好の段階までしか行けなかったとも言えるが……。

 なんにしろ着替えだ着替え!


「さて、服以外のものをアイテムボックスに仕舞ってと。

 それにしても……何でこんなにあるんだ?」


 異世界の服といっても何着もある。似たような服、同じ服が何着もあるのではない。

 学校の制服と祭りの法被はっぴ程に違う複数の服がアイテムボックスには入っていたのだ。

 並べて見るとコスプレイヤーがコレクションを並べているようにしか見えない。


「と言うかこれは服にカウントしていいのか?」


 なんか女神様に遊ばれているようにしか思えない服も多数あるが、まずは着てみよう。


 制服を脱いでと……。


「待てよ……ここはどう見ても無人の地、人里からは離れているし、人っ子一人いそうに無い」


 パンツも脱いでと。


 俺は両手両足を大きく広げ大自然の一部となる。


「ふははははっ!! 俺は自由だー!!」


 嗚呼、この解放感! これが俺の生きて行く新世界!



「ふははははっ!!」



「へっくしっ!」

 うう、体を冷した。ついでに頭も冷えた。

 地球と季節合ってないなここ、死ぬ直前は夏だったのにここは春の始めくらいの気温だ。そう言えば山に雪があるし。


 慣れないことはするもんじゃ無いかも知れない。

 偏見かも知れないがこういう事をするのは馬鹿な体育会系だ。根暗な文化系の俺には向いていない。

 馬鹿な事をした。ストレスの溜めすぎかな?


「さてそろそろ着替えるか」


 俺に露出癖は無いからな、体も鍛えてないし。

 さっさと服を着るとしよう。


「え~と、まずは、……一応着てみるか」


 着やすい。

 動きやすい。

 通気性も抜群。


 難点は。

 首飾りが重い。

 股間がスウスウする。

 そして見かけ最悪。


「奴隷の突貫服か。何で女神様はこんな服入れたんだ? でもそんなに悪くはない」


 見かけは汚ならしくてボロボロなのに清潔で肌触りも良い。

 でも当然却下だな。

 こんなもの着てたら奴隷に間違われる。一枚でズボンどころかパンツもないし。あと首輪で首を痛めそうだ。


 次の服に行こう。


 一端服を脱いでと。

 ふはははは、おっと危ない。


「これがパンツか? 着にくいな…」


 伸びないオムツみたいで履きにくい。


 他の服も着にくい、と言うよりも着方が分からない。

 このアコーディオンみたいなの何だ? これは帽子か? これは豪華な絨毯か?


 試行錯誤を繰り返し、何とか形にする。


 太い二又別れの帽子、襟巻き蜥蜴のような謎のあれ、やたらひらひらの付いた目のチカチカするような色合いの服、金と赤、青い生糸で編み込まれた派手すぎる絨毯のようなマント、豪華なブーツ、そしてオムツのような何か、貴族の服装だ。


「うん、貴族だよな? 道化の服じゃないよな? とんでもなく高そうだし」


 オムツのようなズボン兼パンツと豪華なブーツのせいで変態のように見え、襟巻き蜥蜴のあれと変な帽子のせいでふざけているように見えるが、きっと貴族の服だ。


 正装として普段から着るのもありかも知れないが、何だか落ち着かないし着にくいからこの服も却下だな。

 そもそも動きずらいし、息苦しいから森の中では向かない。街にでもついたら着る事も考えておこう。


 また服を脱いでと、はははっ、この解放感!

 おっと危ない危ない。



「何だこの服? ……まあ着てみるか、誰も見てないし」


 次の服は思いっきり色モノだった。初見から使わない事は確定。

 でも折角なので着てみる事にした。


 面積無くて狭いしすぐはみ出るな……これはもうここで諦めよう。

 えっと後で止めるんだよな? 難しいなこれ。

 下半身寒い。


「……女装メイド、完全に変態だな、俺……」


 ノリで着てしまったが、着てから軽く後悔した。

 と言うか本当に何故女神様はこんなものを俺のアイテムボックスに入れたんだ?


「だが、ここまで来たら……」


 ゴクリと生唾を飲み込む。


 メイド服にはオマケも付いていた。

 ケモミミカチューシャに尻尾。

 これを着けたら完全に変態スタイルだ。でもここまで来たら!


「はうっ!」


 完成だ。

 とりあえずそこらを一周は

 歩く度に違和感があるが構わずに歩き回り色々なポーズ。


「はっははははー!! 俺は自由だーー!!」


 ………………。


 ……………………俺は真人間、そうきっと真人間だ。

 ……セーフ、セーフだよな?

 まず脱ごう。うっ……。


 暫く全裸で遠くの景色を静かに眺めた。


 ふぅ……。


 次の服に行こう。


「今度のはまともだな? まともだよな? これは本当にどうやって着るんだ? うわっ!?」


 突然光が発生し視界が消えた。

 そして次の瞬間には狭まった視界が戻ってきた。

 どうやら着ようと思っただけで装備されたようだ。


「って冷たっ!?」


 一瞬で着てしまったのは白銀の全身甲冑。

 全裸のまま装備されてしまったから全身がとんでもなく冷たい。


 でも動いてみる。

 おっ、思ったよりも動きやすい。重さも殆ど感じない。能力値のせいか? 欠点は視界が兜のせいで狭まる事ぐらい。音も普通に聞こえる。

 でも冷たい!


「却下却下! どうやって脱ぐんだこれ!」

 あっ、脱げだ。


 見掛けは誰から見ても聖騎士のようで格好いいし、着心地も良いがこれを着るのは他の服を着ている時にするべきだな。

 服を選び終わったらその上から着れるか試そう。



 さて次。


「もうとびきり変な服は無さそうだな。コスプレ感はどうしても抜けないが……」

 いきなりそれぞれ極端な服を着たからもうそんなに驚きが無い。


 パッパと着ていこう。


「これは……暗殺者とか密偵の服か?」


 漆黒フード付きマントとを初めとした全身黒装束。

 視界以外全てを隠す徹底されたセットで、怪し過ぎて本物の密偵何かは着れない服だと思うが、影の者をイメージした服装には間違いないだろう。

 因みにシンプルな面も付いている。


「神官かこれ? 勝手にこんな恰好していいのか?」


 白い清潔感のある少し着にくい服。

 性能から考えて不要なものや構造が多く儀式的だ。断定は出来ないが神官の服、少なくとも宗教関係の服だと思う。


「これは……誰得?」


 露出とヒラヒラがやたら多い派手な服。

 多分、踊り子の服装だ。もしかして旅芸人か? 兎も角そんな感じの服。見た感じ男物だ。


 せめて女物なら高揚感が味わえるのに……ハッ! まるで変態じゃないか、浮かれすぎだ。

 俺はまとも俺はまとも俺はまとも!


「フワァハッハッ! 次の服だ次の服! さて次はこれか!」


 頭の隅に浮かんだ危険な思想を消し去る為に大声で全裸の解放感を叫び、独り言を叫びながら俺は試着を続けた。


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