それはもう愛。
望月 星都 ‐もちづき せと‐
ツンデレ彼女とベタ惚れ彼氏
「おまたせ」
歳の割に落ち着いた声。すぐに彼の声だとわかった。
「遅い」
「ごめん笑」
コイツの名前は“桐島湊”。湊は周りからはイケメンでクールでかっこいいと評判で、オマケに成績も優秀というモテ要素満載なのだが、私の前ではヘニャっとしてて表情筋ゆるゆるで、ものすごくニッコニコの笑顔で話しかけてくる。
…湊はなんと私の恋人だ。
どうして私が湊を好きになったのか。
どうして私と湊が付き合うことになったのか。
それを今から話していこうか。
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中学3年生の春。
桜の花のピンク色はどこまでも美しい青い空に映える。春は好きだ。
新しいクラスになり、教室から廊下までが騒がしい。
私はうるさい場所が好きじゃないので、始業式が始まるまで静かな場所に居ようと思い、少し遠くの空き教室へと移動する。そこなら誰もいないだろう。
…いた。
コイツは…テストでいつも学年上位の桐島湊…同じクラスになったことはないが、私が密かに順位を競っている相手だった。
何故桐島がこんなところに?
「えっ、御山…?」
なんと私の名前を知っていた。私の学校ではテストの上位10人が学年の掲示板に貼り出されるので、それに名前が挙がる常連同士知っていてもおかしくないか。
「そうだけど。桐島は…どうしてここにいるの?」
「いや…俺はちょっと騒がしいところが苦手で逃げてきたっていうか」
まさか同じ理由だとは。意外な共通点に驚くが、ポーカーフェイスを貫いたまま、私は「…そう」と答える。
別の場所を探そうか?それとも始業式まで桐島と一緒に…空き教室で2人きり?いやいや、無理だ。会話が続かない。
「御山はどうしてここに?」
私が考えていると、桐島の方から声をかけてきた。
「…特に理由はない…けど」
と、答える。どうしてか桐島と同じ理由で同じ場所に来たという事実が恥ずかしかったから。
「そっか…良ければ始業式まで話さない?」
何を。
「別にアンタと話すことなんてないんだけど」
「まあまあ、せっかく同じクラスになったんだし、親睦を深めるのもいいんじゃないかと思って…というか、俺がもともと御山と話してみたかったっていうのもあるんだけど」
同じクラスだったのか。
てかなんで桐島が私と?
まあでも、ここまで言われちゃどう言い訳していいか分からなかったので、仕方ない。始業式までの辛抱だ。
私は教室に入り、彼の座っていた席の隣に座る。
「…御山は大人っぽいよね」
「は?」
「落ち着きがあるって言うか…クールで…かっこいいよね」
それまんまアンタじゃない。別に私はかっこいいとまでは思わないけど。
というかコイツ、いつも無表情なくせに気持ち悪いぐらいヘラヘラしている。桐島、お前こんな笑顔になれたのか。
「なんか…もう…ヤバい…」
何が。
「俺、御山のこと好きなんだ…」
「…は?」
あまりに驚いたため、言葉が出ない。
桐島が…私を?
「…はぁ!?ちょっ、どういうこと!?」
「ごめん、でもどうしても伝えたくなって」
「そういうのは今どうでもいい!なんで!?今まで接点なかったじゃない!」
「…あるよ。御山は覚えてないと思うけど」
そう言って桐島は話し始めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
中学生になってから、まだ2ヶ月。
初めての中間テストの結果は散々だった。
小学校ではいつも100点を取れていたのに、と落ち込んでいた俺は学年上位10人の名前が書かれた貼り紙を見て、堂々と学年1位に輝いた顔も知らない“御山明日香”という生徒を純粋にすごいと思った。
それから俺は、彼女に負けないように精一杯勉強した。
塾にも通ったし、家でも予習復習をしっかりした。
その努力の甲斐もあって、1年生の三学期の期末テストでは例の貼り紙に名前を載せることができた。でも、彼女…御山明日香にはまだ勝つことは出来なかった。
ある日廊下で
「あの…!」
と、呼び止められた。振り返ると、ショートカット、つり目で大きな瞳が特徴的な女子が俺のハンカチを持ってそこにいた。
「ハンカチ、落としてた」
「あ、ありがとう」
「気をつけなさいよ」
彼女が立ち去る前にふと目に入った名札を見て驚いた。
“御山明日香”だったのだ。
「あっ、ちょっと待って…!!」
俺の声が聞こえなかったのか、彼女はスタスタと足早に去って行った。
それから俺は御山を見かける度に目で追ってしまっている自分に気づいた。最初はライバルとして、「次こそは…!」という気持ちを込めて見ているのだと思っていた。でも、ある日他の男子に告白されている御山を見て変な焦燥感に襲われた。
それで初めて、恋をしているのだと自覚した。
恋を自覚してから、御山のことが頭から離れなくなってしまった。
これは一目惚れに近い類のものなのだろう。
一目惚れ…か。俺の初恋。
最初は名前しか知らなかったやつのことを好きになって…恋をすると人は馬鹿になるって本当だったんだな。しばらく、テストの点数が少し下がってしまった。
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桐島が話終えると、丁度予鈴が鳴った。
ハンカチ…拾ってやったことあったっけ…?あったような、なかったような。
「予鈴、鳴っちゃったな。そろそろ教室戻るか」
そう言って立ち上がり、空き教室を出ようとする桐島を見て、なんだが腹が立ってきた。私は桐島のブレザーを引っ張りこう言い放った。
「桐島…!アンタ、私にそんな恥ずかしいこと言っておいて…何も無かったように教室に帰るわけ…!?」
この時、私の顔は真っ赤だったと思う。自分でも分かるぐらいに顔が熱かった。誰かにこんなに想ってもらうことは初めてだった。それが例え、ライバルだったとしても。
「…っ、顔…真っ赤…」
そう言う桐島も耳まで顔を赤くして、同時に驚いた顔をしていた。
「…アンタの告白、すぐには返事出来ないけど、ちゃんと考えるから…そっ、それ以上恥ずかしいこと言わないで…!」
「う、うん…」
しばらく無言の間が続いた。そのうち本鈴がなって、校舎に椅子を引きずる音が地鳴りのように響く。
「…今日は一緒にサボらない?」
「…そ、そうだね」
それから私達は色んなことを話した。勉強のこと、部活のこと、友達のこと、趣味のこと、家族のこと。意外と話は弾み、時間はあっという間に過ぎて、下校時間となった。今日は午後から入学式があるので、そろそろ帰らなくては。
2人でこっそりと裏口から敷地外へと出た。
「じゃあ…また明日」
「うん…あのさ、明日からも話さない?」
「…あの、空き教室で?」
「誰にも見つからないでしょ」
「そうね。アンタのこと…ちゃんと知りたいと…思った…し…」
私はまた顔を赤くする。慣れない言葉を口にするとどうしても恥ずかしいものだ。
「…可愛い」
「はぁ!?」
「ふはっ…ごめん笑」
「…っ!また明日!昼休みね!!」
「うん、また明日…!」
それから昼休みは桐島と過ごすことになった。桐島は2人きりの時は隙あらば「好き」だとか「可愛い」だとか言ってくるから本当に心臓が持たない。
コイツのクールな印象はどこへやら。今じゃ、いつもヘラヘラしてる変人だ。…でも、そんな桐島を好きになった私も変人かもしれない。恋をすると人は馬鹿になるって桐島が言っていたな、と思い出す。
「…私さ、き…桐島のこと…好き…かも…」
私の桐島への恋心を自覚してから、私はどう告白しようか悩んだ末にストレートが1番だという弟の助言をもとに、好きだという想いを自分なりに正面からぶつけてみた。
私がそう言った瞬間、私は桐島に抱きしめられた。
壁を背もたれにしながら床に座っていたので、壁と桐島に挟まれる形で、身動きが取れない。
「はぁ!?ちょっと…!離して…!!」
「ごめん。でも今だけは許して。嬉しくて、我慢できない」
すると桐島は少し力を込めて、私を抱きしめ直す。
少しだけ、居心地がいいと感じてしまった私も罪だ。抱きしめ返したくなってしまったから。
そっと、桐島の背中に手を伸ばし、触れる。少しだけ。少しだけ。
…どれくらいそうしていただろう。
予鈴に促されて、私達は空き教室を出た。
「御山…」
「何?」
「俺と付き合ってくれませんか?」
「好き合ってるんだから…良いに決まってるでしょ…」
「また顔真っ赤だ…可愛い、明日香」
「かわっ…!なっ…まえ…!?」
「俺達恋人じゃないの…?」
「そう…だけど…っ」
「じゃあ、呼んでよ」
「…湊」
「なに?」
「変人」
「は!?ちょっ、どゆこと!?」
私は恥ずかしくなって桐島…湊よりも速く歩いて教室に戻った。
今の会話、バカップルみたいだ。いや、馬鹿どころじゃない、アホだ。恋をすると人は馬鹿になるとはいえ、好き同士になると馬鹿を超えたアホになるのだろうか。
「おい!明日香ー!!」
戻る途中にそんな湊の声が聞こえたが、そんなの無視だ。
まだ収まらない心臓の音がうるさい。これは速く歩いてきたせいだ。きっとそうだ。そんなことを思いながら本鈴を待った。
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それから時々ケンカすることはあったが、関係は良好のまま、同じ高校に進学し、今まさに放課後を共に過ごしている。
「俺、明日香のことが大好きだよ」
湊が突然そんなことを言い出した。好きだとかちょくちょく言ってくるのは相変わらずだったが、少しだけ声音が変わったように感じた。
「それは私も同じよ。私も湊のことす…き…だし…」
未だに言い慣れない台詞に、言葉が途切れ途切れになってしまう。
「愛してるよ」
今度はなんだと言うのだ。愛してるだなんて滅多に言わな…いや普通に言うのがこの桐島湊という男だ。でもなんだがいつもと違う。
「な、なに、急に…どうしたの…?」
「いや、ちょっと言いたいことがあって」
「言いたいこと?」
湊は深呼吸をして、私を見つめてこう言った。
「…卒業したら結婚しませんか?」
予想外の言葉に私は驚きを隠せない。それと同時に徐々に火照っていく顔を熱が感じられた。
「…は…はぁ!?ちょっ、まだ早くない!?私達高校生だよ!?」
「まだ早いって怒られると思ったんだけど…なんだが言いたくなっちゃって」
「…ったく、アンタは昔から変わらないよね…いつも突然なんだから」
「ごめん笑」
「…まあ…いいよ。卒業して、新生活も落ち着いてきたら、結婚…しよ」
“結婚”。高校生の私達にはまだ先の話だと思っていたが、卒業したらもう大人なのだ。今結婚という言葉を聞いたとき、結婚することに不安があまり感じられなかったのはきっと、相手が湊だからだろう。
「でも…まずは大学受験、ね?」
「はいはい笑」
私達が出会ったあの時と同じ、心地よい穏やか陽気が私達を見守ってくれているような。そんな気がした。
それはもう愛。 望月 星都 ‐もちづき せと‐ @mochizuki_07
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