第8話 手紙と身勝手

憲介が窓を見つめてると後ろで音がした。

振り返ると弥咲が洗面所から出てくるところだった。洗面所で用意をしていただけでまだ部屋に居たのだ。弥咲は憲介と目が合って

「あっ、起きちゃったの?起きたら居なかったってやつやりたかったのに。」

と苦笑いしながら言った。

憲介は言葉を続けようとしたが、弥咲はそんなつもりはなく、すぐに自分の荷物をまとめ出した。荷物をまとめたら、すぐにドアまで歩いていってしまった。ドアを開けて体を半分まで廊下に出したところで憲介のほうを振り向いてこう言った。


「バイバイ憲介」


ガチャン


この10分程の間、憲介は何も弥咲に話せなかった。ただただ、ほぼ裸で馬鹿みたいに弥咲のことを傍観してた。

憲介も帰る支度を始めた。すると、机の上に紙が2枚置いてあるのに気づいた。

手紙だった。


『円谷憲介さんへ


昨日けー君が夜が明けるまで愛し合うって言ってたから、日が昇るまでに愛とか哀とか逢について書きたいと思います。

順番逆になっちゃうけど逢について書くね。

出会ったのは合コンでしたね。(笑)その名も「残り物には福がある合コン」。確かに福があったよ。最初会った時はぜんぜん話してこなかったから私は気がなかったけど、合コンが終わった後で急に連絡先聞いてきてびっくりしちゃった。でもそうゆうとこが面白いと思って何回か会ってみたんだよね。で、何となく付き合うみたいになったよね。でもそしたら全然夜も誘わないし、手すら繋がないし、好きとも言わなくてあの時はだいぶ落ち込んでたんだよ。でも、誠実だし、一途だし、優しかったから全部許せたのかもね。

逢はこの辺にしといて、哀について話します。

今回のこと本当は嫌だよ。最悪だよ。他の女のモノになるなんてありえない。ジェラシーとかのレベル超えちゃったよ。

でも、何故か少し嬉しかった気もする。けー君が初めて身勝手に行動していて、本当になんでかわかんないけど嬉しかった。哀について書きすぎると2人ともアンハッピーだから愛に話題を変えるね。

愛してます。率直にそう思っています。この手紙を読む頃には「愛してました」に変わってるといいな。君みたいに私を頼ってくれて、でも私を助けてくれて、好きでいてくれる人なんてこの先現れるか心配です。

これからけー君を忘れる訳じゃないよ。けー君を嫌いになる訳でもない。最初はわざと冷たく振舞うかもしれないけど、傷つかないでください。私が必要になったら頼ってもいいよ。

もう日が昇りそうなので手紙を終えます。

さよなら。ありがとう。愛してたよ。


郡山弥咲より』


読み終わっても憲介は泣かなかった。

その手紙を丁寧に折りたたんでゴミ箱に捨てた。それが何より2人のためだと思った。


外では寒さがすっかり緑を奪いさり、セピアになった世界が逆説的に憲介を置き去りにした。

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