第7話 セックスとリス(2)

その夜、憲介たちはサンシャインホテル最上階の部屋に泊まった。

部屋に入ると2人とも思わず声をあげてしまった。

「すっご。」

「これはすごい。付き合いたての私たちに見せてやりたい。」

憲介は共感したが、逆に今の自分たちは見せてあげたくないと思った。

部屋が広くてもやることは同じで、弥咲はベットではねてはしゃぎ、深夜になるまで風呂も入らずに思い出話をした。

時計がてっぺんを越したころ、

「一緒にお風呂入る?」

と聞いてきた。

「いや、いい。」

「そっか。じゃあ一番風呂失礼しまーす。」

そう言い、彼女はスキップをしながらお風呂へ向かった。憲介のことを振り返らずに。

この瞬間が憲介がこの夜に残した唯一の後悔だった。なぜなら憲介は付き合っていた2年間、恥ずかしがって1度も弥咲と風呂には入らなかったからだ。


2人とも風呂に入り終え、深夜のしょうもないお笑い番組で笑いあい、その番組が終わると弥咲がテレビを消した。テレビを消すのが2人だけの合図だった。

「やりますか!」

弥咲がずっとテレビの方に向けていた首を急に憲介に向けて言った。

「やりますか!とか言わないでよ。気合い入ってるみたいでこっちが恥ずかしいよ。」

「私は気合が入ってるよ。」

真面目な顔だった。いつも憲介の仕事の愚痴を聞いていたときみたいに。


ベットの上で寝転がる弥咲はいつも小動物のように可愛いかった。肩までの髪がベットのシーツの上に広がっているのがこの上なく愛しかった。

「いいよ。けー君。」

まずはキスをした。溜まっている愛をすべてすべてあげるつもりで。

憲介のなかでは長すぎるくらいしたけど、それでも愛はあげきれなかった。

弥咲はその間、いつものように受けとめ続けてくれた。

「好きだよ。」

憲介はキスの後そう言った。

「じゃあもっと好きだよ。」

「じゃあ俺はその倍好きだよ。」

「これ終わんないやつだよ。」

そうやって2人はまた笑った。

「じゃあ2人とも同じくらい好きでいいんじゃない?」

「そうだね。この夜が明けるまでは世界のどのカップルよりも俺らが1番愛し合ってるんだよ。」

「それ最高。」


その夜は互いに精一杯抱きしめあった。性欲より愛情で。自分より相手で。

2人の夜は不器用だったけど、他に変えようのない幸せだった。



いつの間にか朝になってた。

憲介は横を見たが、弥咲はいなかった。

憲介は思わず窓辺に走った。まだ間に合いそうだったからだ。

窓の外では、ビルの群れの中を必死に抜け出してきた泣けてくるほど綺麗な朝日が昇っていた。

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