第13話どっちか、なんて…

「——聞いてる、克貴ぃ〜?」

左耳に甘く妖艶な囁きが響き、ふっと我に返った俺は声にもならないもので返した。

「……あ、あぁ。聞いてるよ、聞いてる」

「聞いてなかったよね、その返事ぃー……だからさ——」

先ほどの話題を改めて話し出した懐かしい女子の声がだだっ広い教室内に響き出す。

声の主を確認しようと振り返るのが怖い。

確認するまでもなく、彼女あいつなのだ。

背中に押し付けられる柔らかい感触といい、腹を触れている彼女の重なる手が異様な状況を物語っていた。

そう……教室内で沙耶華が背後から抱き付いているのだ。

知っているようで知らない、違和感を感じる空間にいた。

視界に映る黒板は何だか横幅が短く感じられるし、教室内の掲示物が見慣れない物に変わっていたりロッカー等の配置が変わっていたりしている。

明らかに現実リアルの世界では、なかった。天井に吊り下がる蛍光灯の明かりではない謎の白みがかる光りが教室内に差し込んでいた。

見渡し続けても景色の変わらない白い空間ではないのが救いに思えた。

「——なんだけど、どう?」

「えっ……?」

「だからーぁ私と彼女、どっちにするかって聞いてるの」

「か、彼女……?」

「どうなんですか、柳葉先輩?はっきりしてくださいよ」

唐突に右耳を襲う沙耶華とは違う声に、ビクッと身体が震えた。

声を認識した瞬間に右腕の二の腕あたりにぷにぷにした感触と背中よりやや控えめな柔らかい感触に圧迫されるのを感じた。

右側に居たのは澪詩恵だった。俺の右腕を両腕で離すまいと絡めて胸を押し付け、サンドしていた。

「澪詩さんっ!?なんで澪詩さんまで……?」

「あぷ、アプローチしても……私のこと、好きになってくれないからじゃないですかぁっ!わっわた、私じゃ……柳葉先輩には好きにさえ、なってもらえない、んですか……?」

「そういうんじゃ……な、くて……」

澪詩からは想像できない大胆さのあるコーデの衣服も相俟って、動揺が激しい俺だった。

潤ませた瞳で見上げられては、もう……お手上げだ。

背後から沙耶華に抱きしめられ、右腕には澪詩が両腕を絡めながら胸を押し付けている。

現実リアルでは、まずあり得ない状況だ。

「さあ、克貴はどっちにするの?」

「柳葉先輩、選んでください私を」

沙耶華と澪詩が同時に迫ってきた。


無理難題すぎるってぇぇええぇぇぇえええ〜〜〜!?



はぁはぁっ……はぁはぁっ……


夢だった……


起床した俺だったが太ももにのしかかる圧迫感に違和感を感じ、上体を起こすと姉が馬乗りになっていた。

「一応、聞くけど……なんで居んの?」

「何で、って……そりゃあ〜愚弟の可愛い寝顔を拝みに——」

「うっせぇッ、バカ姉貴がぁッ!」

「っったぁーーーッ!」


ベッドから突き落とし、廊下に放り投げた俺だった。


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