第30話 対面! ニーゼサーカス団!!

「ちゃんと逃げずに来たみたいだな」


「もちろんだ」


 俺たちサーカス冒険団は、ニーゼサーカス団へとやってきていた。


 今回はもちろん。スライムも含めたリル、マイル、ヤング、そして、アリサのフルメンバーでだ。


 対して、ニーゼサーカス団は、モーケが先頭に立ち、後ろには昨日と変わらない様子のゴルドを初めとして、どこを見ているのかわからないかつての仲間たちが、ぼんやりと立っていた。


 そしてなぜか、サーカスには観客が入っていた。


「逃げ出せば、ここの観客に、勝負から逃げるダサいサーカス、というレッテルを貼られるところだったが、それは避けられたみたいだな」


「逃げるつもりなんて最初からないからな」


「そこの雑魚スライムに聞かなかったのか? ワシらには強力な仲間がいる。お前たちじゃ到底敵わないような相手だ」


「だからどうした」


「ふっ。威勢がいいことだ」


 モーケは俺たちのことを鼻で笑った。


 なるほど、逃げれば居場所がないという話は、悪評を立たせることで俺たちを不利な立場にしようということだったのか。


 しかし、来てしまえばそれも関係ない。


「あれがドーラのかつての団長か」


「そう。だけど、話をまともに取り合う必要はないよ。もう、俺の信じていた団長じゃないから」


「そうか。まあ、そうなんだろうな」


 リルも同情の目線をモーケに向けていた。


 俺を拾ってくれた時は、いい人だと思ったが、ここまで他人を利用するようになるとは。


「聞こえているぞ。だが、そうか。昔のワシのことは信じてくれているのだな」


「当たり前だ。今はどうあれ、これまでのことは感謝してるからな」


「なら、いいことを教えてやろう」


「なっ」


 モーケの言葉にアリサがなぜか声を漏らした。


 その様子にモーケはニヤリと笑った。


「アリサ。生きてたのだな。嬉しく思うぞ。今なら抜けたことも咎めずに戻ってくることを許そう。そうすれば、これからの話をしないでやろう」


「いいえ。そんなことはしないわ。ドーラはそこまで弱い男じゃないから」


「どういうことだ?」


「それはつまり話していいということだな。アリサは気づいていたことを」


「ええ。もちろん」


 一体アリサは何を知っていたんだ?


 どうしてモーケはそんなことを今話そうとするんだ?


「ドーラ。お前を拾ったのはワシだ。確かにお前は不遇だっただろう。周りからの扱いも悪く、散々だった。そこにワシが救いの手を差し伸べた。そんな記憶になってるんじゃないか?」


「そうだ。そこに間違いはない」


「なら、その記憶が作られたものだとしたら?」


「何?」


 作られた記憶? そんな馬鹿なことがあってたまるか。


 俺は最初からドーラだった。そして、珍しく火吹き芸が使えたんだ。


 いじめられていた理由など、火吹き芸が珍しいだけで役に立たない。それだけだ。


「お前の扱いは、実は誰かにコントロールされていたものだったんだよ」


「なんだって?」


 そんなこと聞いたことがない。


「とある男が噂を流したんだ。火吹き芸など使えない。と、するとどうだ。ほとんど確かめもせずに話は広まった。火吹き芸の少年は次第に周りから見放され、いじめられるようにまでなった」


「は?」


「そして、唯一力を認めてくれる男が現れた。その男は色々言って、少年をサーカスの道に誘ったんだ」


「……」


 俺の悪評は誰かの噂が始まりだった?


 本当は使い道が薄いわけじゃなかった?


 そして、その噂を流したのは。


「そうすれば、誘った男だけを信じるようになるだろう? もっとも、今となっては信じ続けてもらうことはできなかったようだがな」


「そうか。そうだったのか」


「強がりはよせ」


「いや、強がってなんかいないさ」


「何?」


 今度はモーケの方が動揺したようだった。


「ふっ」


 俺はおかしくて笑いが込み上げてきた。


 なんだ。そんなことだったのだ。


 最初から、俺は誰かに道を歩かされていたのだ。


 俺を攻撃してきていた人は、ただ噂に流されていただけなのだ。


「何がおかしい!」


「おかしいさ。おかしくて仕方ないさ。俺のこれまでの違った側面を聞かされたんだから。そして、悪人はただ一人とわかったんだから」


 そう、俺の噂を流したのはどう考えてもモーケということだ。


「感想はそれだけか?」


「もちろん。これで、心置きなく戦える」


 俺の反応が予想と違ったのか、モーケは歯ぎしりを始めた。


 もし、俺を警戒し動揺を誘ったのなら、それは間違いというものだ。


 これほどの観客を前に不易な暴露話をしてしまうなど、どうやら判断能力も相当落ちているらしい。


「ほらドーラなら、大丈夫でしょ? どんな話か知らなかったけど、どうせろくでもないことを考えていたことくらいはわかるからね」


「おのれ、ドーラだけでなくアリサまで。どいつもこいつも」


「そろそろ話だけじゃなく、本番を始めようじゃないか。観客も待ってる」


「それはワシのセリフだ!」


 モーケは顔を赤くして、怒ったように大きな声を出した。


 よっぽど俺の反応が気に食わなかったらしい。


 しかし、会場内に響いたその大声も、鬼のような形相も、照明が消され、一気にわからなくなった。


 そして、それにつられるように観客のざわめきも静かになっていった。


「レディースエンドジェントルマン!」


 スポットライトがモーケに当たり、モーケの声が会場に響いた。


 先ほどまで怒っていたことが嘘のようにモーケが爽やかに言った。


「ニーゼサーカス団へようこそ。本日お見せしますは、現在話題沸騰中のサーカス、サーカス冒険団と我らニーゼサーカス団による勝負です」


「おー!」


「ドーラくーん!」


「アリサー!」


 俺の名前が呼ばれてなかったか?


 アリサはわかるけど、俺まで呼ばれてなかったか?


「おほん。内容は簡単。観客の皆さんをより盛り上げられた方の勝ちです」


 スライムの警告はあったが、盛り上げるなら別にギガンテスを倒す必要はないのか。


「カウントはこの魔道具を使用します」


「なんか怪しくない?」


「まあ、この流れだと変なものな気がするけど」


「私のスキルではあれは一応本物らしいぞ」


「リルって道具の鑑定もできるの?」


「まあな。人が良くても道具が悪ければ仕方ないだろう?」


「確かに」


 リルが言うならモーケのカウンターも信じていいだろう。


「それではショーをお楽しみください」


 どうやら、ショーに見せかけたバトルがとうとう始まるらしい。

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