◆思わぬ伏兵
やっとのことでクリちゃんをなだめたあと私は再度集中する。
本番はここからだからだ。
私の前には五人のクラスメイト。その生徒が一人また一人と白いカーテンの向こうに消えていく。そのたびに私の胸は大きく跳ねる。
目をつむり視覚からの情報をシャットアウトして鼓動を落ちつかせる。
大丈夫。作戦は完璧なはず。
これでもし勃ったとしても大丈夫なはずだ。
あとは平常心を保つだけだ。
そのための集中だ。
私はその場で深呼吸を一回、二回、三回と繰り返す。
よし!イケる!
そう自分に言い聞かせて私はそっと目を開く。
「な…… なんで⁉」
目を開いて最初に見た光景は簡易保険室の白いカーテンではなく一人のクラスメイトだった。
これだけ聞くと普通の事のように思うかもしれないが、そのクラスメイトにはある特徴があった。
順番待ちをしているクラスメイトではない。
診察を終えて出てきたばかりのクラスメイトだ。
そのクラスメイトもとい彼女は服を着ていなかった。
正確には上半身裸!
その手には体操服とブラが握られていた。
ブラすらも着けていない!
「…… どうして脱いでいるの⁉」
上半身裸の少女の名は
私と同じクラスに所属する。ギャルっぽい女の子。
クリちゃんに負けず劣らずのモデル体型。
本当に同じ中三かと疑ってしまうほどのグラマラスボディ。
ロングのウェーブにした茶髪が白い肌によく似合っている。
その森さんがブラまで脱いでいる。
幸いにして胸の大事な部分は髪に隠れて見えることはないが、そのたわわに実った胸がプルンッと揺れるたびに見えてしまいそうでドキドキする。
「診察するのに上めくるでしょ。それが面倒で脱いだ」
森さんは面倒くさそうに答える。
「ブラまで脱ぐ必要はあったの?」
体操服をめくるとしてもブラまで脱ぐ必要はないはずだ。医者もさすがにそこまでは強要しない。
「胸が大きいと心音が聞こえないとか何とかで脱いだ」
……え?
胸が大きいと心音が聞こえないの?
初耳なんだけど。
脂肪が邪魔して聞こえないとかそういうことなのかな。
「
勝ち誇ったような顔でもう一度胸を揺らすとブラの肩紐の部分に指をかけクルクルと回しながら私の肩を叩いてその場を去っていった。
「あたしもブラ脱ぐのかなぁ。って!りなっちどうしたの!大丈夫?」
後ろで話を聞いていたクリちゃんが心配そうに声をかけてくる。
「どうしてうずくまってるの?お腹痛いの?」
「大丈夫。お腹はいたくないよ。ただ…… 」
勃ってるだけだから。
油断した。まさかこんなところで思わぬ伏兵が現れるとは!
予想していなかった。
若い女医に観られて勃つことばかり考えていて、他の女の子のあられもない姿を観たときのことを考えていなかった。
クリちゃんに抱きつかれたときはそこまで反応しなかったのに別の女の子の裸を観ただけでここまで反応するとは。
我ながら節操がないな。
動くことができない。
動いてしまうと確実に私のあられのない姿を晒してしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
「ねえ、本当に大丈夫?次りなっちの番だから先生に直接診てもらったら」
「そうだね。そうしてもらおうかな」
そうは言ったものの動くことができない。
「もしかして動けない?手貸した方がいい?」
そういって右手を差し伸べてくれるのは嬉しいんだけど、その手を握ることはできない。
「大丈夫だから。少ししたら大丈夫になると思うから」
だからそれまで放っておいてほしい。
だけどそれを口に出すことはできない。クリちゃんを傷つけてしまうかもしれないから。
「風利さん大丈夫ですかぁ?」
私があまりに立たないものだから担任の
それどころか心配したクラスメイトたちが次々に集まってくる。
―大丈夫?
―生理がきたの?
―もしかして陣痛?
そんな声が次々聞こえてくる。
というか最後の一人何気に失礼なこと言ってない!
その声の中にはさっき私の肩を叩いた森さんもいる。
もしかして私が原因?みたいな顔で心配そうに私を観てくる。
大丈夫だよ。あなたが原因じゃないよと言ってあげたいが、ここで言ったら彼女にあらぬ疑いがかけられてしまう。
そうしたら原因解明に動き出すクラスメイトや先生が現れてしまうかもしれない。
そして、私がおとこの娘だということにたどり着いてしまうかもしれない。
森さんなにかと私を敵対視しているから彼女が疑われるのは時間の問題だろうか。
先ほどのやり取りを誰かに観られているかもしれない。
というか絶対に観られてる。
上半身裸の女の子が居たんだよ。こんなの男の子じゃなくても見ちゃうでしょ。それがモデル体型ならなおさら見ちゃうでしょ。
私も見たからこうなってるわけだし!
とにかく早くこの状況を何とかしないと。
私は一回息を吐くとゆっくりとだが立ち上がってみせる。
もちろんアレは股に挟んだままで。
みんなの心配そうな視線が突き刺さる。
「お騒がせしました。もう大丈夫です」
私は軽く頭を下げると白いカーテンの中に入っていく。
私がカーテンの中に入った直後に誰か一人の声が聞こえてくる。
「中腰でモデル歩き?」
なんで今になってモデルウォークに触れるのよ!
一番触れちゃいけないタイミングだよ。
「風利さんね。なんだか騒がしかったみたいだけど大丈夫?」
背中越しに女医の声が飛んでくる。
「そんなところにいないでこっちに来て座りなさい」
「…… はい」
どうしよう。
あの状況を打破することしか考えていなくて、こっちのこと考えていなかった!
私は今現在進行形で勃っている。
このままバレてしまう。
何とかしないと。
だけど、ろくな案が思い浮かばない。
助けて悠聖!
心の中でそう念じるが悠聖は助けに来てくれない。
こんなことなら助けを求めるサインでも考えておくのだった。
こうなったら最終手段だ。素数を数えるしかない。
悠聖は数学から離れろと言っていたが今の私には数学しかない!
「何をしているの早くこっちに来なさい!」
目を閉じて素数を数えようとするとしびれを切らしたのか女医が近づいてきて私の肩をつかみ強引に椅子に座らせる。
「まずは心音を聞くから背筋を伸ばして服をめくって」
お、終わった。私の学生生活が終わってしまった。
ごめんね悠聖。失敗しちゃったよ。
ごめんね
心の中で二人の恋人に謝ると私はそっと目を開いた。
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