◆乙女の体重は秘密ではない

「予想以上に伸びていた」

 健康診断の記録用紙を見ながら私はつぶやく。

 どうやら私の成長期はまだまだこれからのようだ。

 これはもしかしなくても男性ホルモンの影響なのではないだろうか。

 男性ホルモンの影響で身体が徐々に男の子に近づいている証拠なのかもしれない。

 そうであれば当然体重も増加しているはずだ。

 それはなんだかいやだな。

 男の子は体重が増加すると筋肉量が増えたと考えて喜ぶらしいが、おとこの娘である私は体重が増加したり筋肉量が増えても別に嬉しくない。

 マッチョに憧れておとこの娘になったわけではない。

 どちらかというとクリちゃんみたいなモデル体型に憧れる。

 記録用紙を眺めながらそんなことを考えてしまう。

 本番はこれからだというのに。

「結構伸びてるね。集中の賜物なのかな」

 クリちゃんが後ろからその高い身長を活かして覗いてくる。

「そういうクリちゃんは伸びたの?」

「あたしも伸びたよ。集中の賜物だね!」

 集中は関係ないはずでは?

「これ以上伸びてどうするつもりなの?」

「伸ばそうと思って伸びてるわけじゃないからね。あたしにはどうすることもできないの」

「贅沢な悩みだね」

「その贅沢が贅肉になるんだよね」

 心の贅沢は体に還元されるということかな?

 とするとクリちゃんは体重も増えるということらしい。

「体重が増えるのも嬉しくないの?」

「女の子で体重が増えて嬉しい子はいないでしょ?」

 それもそうだね。

 私も嫌だし。

 おとこの娘だけど。

「それでも受け入れるしかないの。身長が伸びるということは体重が増えるのと比例するから」

 クリちゃんが悔しそうにこぶしを握る。

「だったら私も受け入れるしかないね」

 私もそれをまねしてこぶしを握る。

 なんだかはたから見たら集中しているみたいだ。

 もしかしたら集中したら体重の増加はなくなるかもしれない。

 こんなこと考えるなら朝ご飯を抜いてくればよかったと今更ながら後悔する。

「それじゃあ受け入れに行こうよ。現実を」

 現実を受け入れるべく世界で一番嫌いな乗り物である体重計に私は足を乗せる。


「予想以上に増えていなかった」

 男性ホルモンの影響で身長と同様に体重も増えていると考えたが、そんなことはなかった。

 それでも体重が増えるということは少なからずショックなのでポジティブに考えよう。

 少しばかりの増加だったからこれは成長だ!

 そう自分に言い聞かせていると視界の端に膝を抱えているクリちゃんをとらえる。

「…… えっと、その大丈夫?」

 その落ち込み方は尋常ではなくかける言葉を探すのに手間取ってしまうほどだ。

「大丈夫じゃない」

 大丈夫じゃないか。

 普段明るいクリちゃんが暗くなると、そのギャップで人一倍暗く見えてしまう。

 ここは何とかして励まさないと。

「大丈夫。大丈夫。一キロや二キロは成長の範囲内だよ!」

「そんな可愛いものじゃない」

 ふてくされた様子でクリちゃんは言葉を続ける。

「1㎏や2㎏なんて可愛いものじゃない!」

 ふてくされるというかもはや怒っていた。

「いったい何キロ増えたの?」

「4㎏」

「それはなんともご愁傷様」

 祈るように憐れむように手を合わせる。

「諦めないでなぐさめてよ!」

 そんな無茶なことを言われても。

 いくら成長期といっても1年で4㎏太るのはどうかと思う。

 まあ、クリちゃんならその可能性がないわけじゃないけど。

「クリちゃん最近胸が大きくならなかった」

「え?そういえば最近下着を買い替える頻度は上がったけど」

 涙目になりながら自分の胸に手を当てる。

「脂肪が全部胸になったと言いたいの?」

「きっとそうだよ。良かったね!胸が大きくなって!」

「これ以上大きくなってもしょうがない!」

「贅沢な悩みが贅肉を増やすの!」

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