幕間の物語~中学二年生クリスマス前②~
ブランコを漕いでいる儚げな女の子に声をかけてしまった。
声をかけるつもりはなかった。
でも、自然と声をかけてしまっていた。
それだけその女の子が魅力的に映ったのだろう。
声をかけられた女の子は初めは戸惑った様子を見せていたが、話をしていくうちに次第に私に心を開いてくれて思いのほか話が盛り上がった。
聞けば女の子は私と同い年で悩みを持っているらしい。
確信はないが私と似た悩みを抱えているような印象を感じた。
普段私は他人に悩みや弱さなどはほとんどみせないのだが、同じ悩みを抱えた者同士なのだろうか私は女の子に自分の悩みを打ち明けていた。
今年の夏に彼に初めてを捧げたこと。
その彼と付き合わないということ。
そして、『男の子より女の子が恋愛対象』だということ。
そんなバカみたいな悩みを聞かされた女の子はきっとあきれ顔をしていたと思う。
だが、うつむいている私にその顔を見ることはできなかった。
怖かったからだ。同じ悩みを抱えていると思っていても他人に負の感情をぶつけられるのは怖い。
しかし、女の子はそんな私の悩みを真摯に聞いてくれた。
そして女の子は私にこう言ってきた。
「それじゃあ、私と付き合ってみる」
何を言っているのか理解が出来なかった。
女の子同士で付き合うという発想がなかった。故に理解できなかった。
しばらくの沈黙の後、私は一つの考えにたどり着いた。
そうかそういうことなのか。恋愛対象が女の子なら付き合う相手も女の子でいいはずだ。
だが、そんな目からうろこの提案をされても目の前にいる女の子と付き合う気にはなれない。
初めて会った女の子といきなり付き合いだすのはどうかと思う。
そういうのはもっとこう何回かデートを重ねたのちにどちらからか告白して恋人になるべきだ。
少なくとも彼とはそういう風にして初体験まで持ち込んだ。
この時点で私は彼女からの奇抜な提案は断ろうと考えていた。
だが、こんな魅力的な女の子を振るのはもったいないとも考える。
それに、自分から振るのはなんだか気が引ける。
私に好意を寄せてくれている後輩女子の誘いはいままで散々振ってきたが。目の前の彼女はなんだか特別な気がする。
ここは目の前の女の子から自分を嫌ってもらうのが一番だと思う。
嫌うという負の感情を味わうことになるが、自分から振るよりはいささかましだろう。
それに、嫌われればこの女の子の妙な魅力ついても理解ができるはずだ。理解できなくとも金輪際会うことはない関係性にまで持っていける。
さて、問題はどうやって嫌われるかだ。
すでに自分はこの女の子に対して、ものすごいカミングアウトをしている。
普通の子ならとっくに私に嫌悪感を抱いているが、この女の子はそんな感情を一切見せない。まるでそんな感情を抱いていないかのように。
むしろ優しい聖母のような微笑みをたたえている。
そんな女の子に嫌われるのは至難の業だろう。
だが、私には女の子に対して嫌われる術を持っている。
過去に私が後輩女子を振ったあの提案をすればいいだけだ。
この提案をすれば私も相当なダメージを受けることになるがこれ以外に手はない。
私は覚悟を決めて、魅力的な女の子に魅力的ではない提案をした。
今思えばこの女の子に声をかけたことよりこの提案をしたことが運命の歯車を狂わせたのだろう。
「あなたがおとこの娘になったら、付き合いましょう」
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