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 素直は薄暗い部屋の壁一面に描かれている奇妙な魚たちの絵に目を向ける。

 暗い部屋の中でその魚たちの絵を見ると、まるで今、自分が本当に暗い海のそこにでもいるような気持ちに素直はなった。

「そんな状況になったら、素直くんはどうする?」仄がいう。

「その浮き輪を仄ちゃんにゆずる」

 とまったく迷わないで素直は言った。

 そんな素直の言葉を聞いて「……ありがとう。素直くんなら、そう言ってくれると思っていた」と嬉しそうな顔をして、仄は言った。

「でも、私はそんなことは望んでいない」

 と仄は言う。

「僕が仄ちゃんに浮き輪をゆずることを?」仄を見て、素直は言う。

「そう。だってそんなことをしたら、素直くんが暗い海の中に一人ぼっちで沈んでいってしまうから」と仄は言った。

「でも、二人一緒に沈んでしまうよりは、そのほうがいい。だって仄ちゃんは助かるんだから」と素直は言った。

「一人だけ助かっても、意味はない」仄はいう。

「そんなことはないよ。意味はある」素直は言う。

「素直くん。私はあなたのことが好き。大好き」と急に仄がそんな(場違いな?)ことを素直に言った。(素直を見る仄の美しい大きな黒い瞳は、少しだけ潤んでいた)

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