16

 考えてから、長閑はまず自分の左側にあるドアに入ることにした。(まずは近い場所から探して行くことにしたのだ)

 そのドアを開けようとするときに、長閑は一瞬、とても嫌な予感を感じた。

 長閑はとても嫌な想像をした。

 それは、その部屋の中に『誰かの死体』でも転がっているのではないか、という突拍子もない想像だった。(そんな想像をし始めると、なんだかこの場所が急に『本当なら絶対に近づいてはいけない、本当の本当にとても怖い場所』のように思えてきてすごく怖くなった)

 その誰かとは、……ううん。そんなこと考えたくもない。

 小さく頭を振って、長閑は自分の嫌な想像をかき消した。

 ……でも、その嫌な予感は長閑の中から消えて無くなってしまうことはなかった。

(ドアノブに触れようとする長閑の手はずっと小さく震えていた)

 どうしよう?

 ……怖い。怖いよ、素直くん。

 長閑は思う。

 そのまま少しの間、廊下のところに座り込んで、一人で震えていた長閑はやがて諦めて、そのドアを開けることをやめてしまった。

 それから歩き始めた長閑はさっきと同じように自分の正面に見えていたドアを開けることもしないままで、そのまま小さな家の一階の通路をぐるりと一周して玄関の前まで戻ってきた。(途中、反対側の通路にもドアがあったけど、そのドアも開けないまま通り過ぎてしまった)

 ドアの前で聞き耳を立てて、中から誰かの話し声がしないか、物音がしないかだけを長閑は(勇気を振り絞って)確かめたのだけど、どこからも、なんの音も聞こえてこなかった。

 玄関のところに戻ってきた長閑はそこからもう一度、正面にある階段を見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る