第4話 待ち人来たらず

 さて、困った。

 まさか、住み込みの使用人がやってこないとは。


 昨日、地下の実験室から1階に戻っても使用人の人たちは到着していなかった。

 念のために屋敷の外も確認したのだけれど、誰かが来たというような形跡はなかった。

 なので、何らかの事情で翌日に到着が延びたのだろうと思い、ベイルたちが残していった食料から夕食を用意してそのまま眠りについた。


 そして、迎えた今日。

 広々とした慣れない部屋にいつもよりも早く目が覚めてしまい、二度寝する気分でもなかったのでそのまま起きて今に至る。

 ちなみに、今は既に夜といっていい時間だ。


 そう、最初にも言ったが、今日も使用人が到着しなかったということだ。

 到着に気づかないのはマズいということで、今日は使用人の人が来ても大丈夫なように地下の実験室から読みたい本や資料を1階の応接室に持ち込んで待っていた。

 昼食についても、すぐに用意できる簡単なメニューにしたので、ほとんど席を外すこともなかった。

 そこまでして待っていたというのに、来ない。

 来るはずの使用人たちが来なかったのだ。


 まあ、昼過ぎまではそこまで気にしていなかったのだけれど、夕方になるとさすがにおかしいと思いはじめていた。

 で、あたりが暗くなった今、どうしようかと頭を抱えているという次第だ。




「本当にどうしようかしら」


 さすがに完全に日が落ちてからやってくることはないだろうと、食堂で遅めの夕食をとる。

 メニューはパンにスープというシンプルなものだ。

 ただ、パンについては保存用のものがなくなってしまったので、明日からは自分でパンを焼く必要がある。

 スープに使った食材についても、干し肉と野菜があと2日分あるかどうかといったところ。

 使用人の人が来ない以上、食事関係についても自分でどうにかしないといけない。


「もう数日待つか、町に問い合わせに行くか。

 さすがに、ベイルの言葉が嘘だったとは考えたくないのだけど……」


 食事を終え、これからとるべき方針を考える。

 一応、町にあるギルドに行って領都の本宅へと問い合わせてみれば、使用人の件についてはすぐにはっきりするはずだ。

 魔の森に近い冒険者の町としてある程度発展している以上、さすがに通信用の魔道具は置いてあるだろうし。


 問題があるとすれば、ギルドにある通信用の魔道具の利用料金が高いところか。

 使用人たちがただ遅れているだけの場合、この費用が無駄になるのだから、ついついもう数日待ってみようかなという気になってしまう。

 少し高価な出費をためらってしまうのは前世の記憶ゆえか。

 イマイチはっきりとは思い出せないけれど、前世の私は一般庶民だったようだし。


「……まあ、仕方ないか。

 一応、こっちに来るにあたって少しは資金をもらっているのだし、ケチらずに問い合わせをすることにしましょう。

 ただ待つにしても町に食料の買い出しに行く必要はあるのだから、町に行くついでだと考えれば……」


 声に出してそう言ってみるものの、どうしても前世から引き継いだ金銭感覚が邪魔をする。

 必要経費だということは頭ではわかっているはずなのに、感情が納得しない。

 もう少し貴族家の令嬢としての生活が長ければ、今世の金銭感覚で上書きできていたかもしれないのに。



 一応、通信用の魔道具以外にも問い合わせの方法はある。

 町を行き来する用事がある人についでに連絡を依頼する方法だ。

 こちらの方法を利用すれば、かかる費用はかなり安くなる。

 ただ、実際に人が行き来する必要があるので、代わりに時間が相当かかることになるが。


 今回の場合だと片道3日なので、回答が来るのは最短で6日くらいか。

 私は馬車でゆっくりと移動していたので、馬で急げば片道1日くらいは短縮できるかもしれない。

 ただ、それでも最短で4日だ。

 しかも侯爵家からの回答がすぐにもらえるかもわからないし、依頼を受けてくれる冒険者がすぐに見つかるかもわからない。


 やはり、問い合わせをするのであれば通信用の魔道具を利用する以外は考えられなさそうだ。



「なんでこんなに問い合わせにかかる費用が高いのよ……」


 通信用の魔道具の利用料金が高額に設定されているのは、魔道具の起動に魔石が必要になることと無駄な使用を避けるためだ。

 かつて聞いた情報を思い出し、その理由に納得しながらもついつい愚痴ってしまう。


「はぁ。

 もしかしたら明日の朝早くに到着するかもしれないし……」


 そんな自分でも信じていないようなことをつぶやき、明日の移動に備えて早めに眠りにつくことを決めた。

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