【二章完】落とし穴ばっか作ってんじゃねえ! と怒鳴られ追放されたので、気晴らしに世界旅行します〜実は万能な地属性魔法で無双していたら、かわいい剣聖令嬢と出会えました。影の最強かぁ……え、僕が!?〜

コータ

第一章 追放からの気晴らし旅行 知らない世界へ出ていこう

第1話 追放とただの思いつき

 どんな人にも持って生まれた才能というものがある。


 便利なことに、生まれてからある程度大きくなると、神父様が儀式によって教えてくれるんだ。


 僕は意気揚々とその儀式を受け、そしてぽかんとした顔で教会から出ていった思い出がある。


 なぜかと言うと、たった一つ適性があると判断された魔法が、『地属性』というよく分からないものだったから。


 魔法といえば筆頭は光属性や闇属性であり、絶えず最強論争に上がる。


 それに比べて地属性は?

 まったく話題にすら上がらない。


 むしろよく知らないけど、多分最弱じゃない? なんて言われる始末だった。


 でも、僕はこの魔法を覚えていくほどに考えが変わっていった。

 凄くできることが多彩かつ個性的で、そして奥が深い。


 だから、喜んで魔法を勉強し続けたし、きっと認められると信じていた。

 信じていたんだけど……。


 ◇


「キーファ! てめえ落とし穴ばっか作ってんじゃねえ! もう追放だコラ!」

「つい……え?」


 ここはとある酒場。アルスターっていうでかい王都にあって、それなりに高級なお店の一つ。


 僕、魔法使いキーファを怒鳴ったのは、パーティリーダーである風の剣士ジャックだ。


「追放だって言ってんだよ! お前のなぁ、その地味な魔法……なに魔法だったかな」

「地属性だけど……」

「そうだ。そのクッソ地味な魔法のせいで、俺は今日落とし穴にハマっちまった。分かるか? たった一人で一つ下の階層に落とされた俺様の気持ちが、お前に分かるか?」

「いや……でも、あれはちゃんと前もって伝えて、」

「ウルセェ!!」


 僕は背筋が伸び上がりそうになった。短く整えた茶髪と、端正な顔立ちをした女性人気が高い男なんだけど、こうして唾を飛ばして怒鳴っている時は熊みたい。


「この一年間よぉ。お前のしょーもない魔法に我慢してやったがもう限界だ! とっとと俺のパーティから出ていきやがれ」

「そ、そんなぁ。いきなり追放なんて言われても。何とか頑張るから! ここは、」


 その時、ジャックの隣にいるプリーストがフフン、と笑った。長い赤毛と白い法衣が目立つ美女だ。


「頑張ったって無駄ですわよ。無駄な男の考える無駄な足掻きにはほとほと呆れるばかり。所詮地味で使い所のない地属性魔法なんて、これからは足手まといにしかなりません。そのうちミミズまで魔法に使ったりしそうですね。地味な上に汚らわしい」


 彼女の名前はアナ。プリーストであり、僕らの生命線である回復や補助を務める。冒険者パーティには最低一人は必要な存在だ。でも口が丁寧なようで悪い。体を癒して心を壊してくるような、かなり厄介な人。


「使い所ならいっぱいあるんだよ。以前も説明したと思うけれど、例えば——」

「け! 大したことねえゴーレムを何体も作ったり、岩を作ってぶつけたり、あとは落とし穴だろ落とし穴。あー腹たつ! お前さてはわざと俺を穴に落としてんだろ!」

「ご、誤解だ! 僕はそんなことしない」

「ジャックを落としたことはどうでもいいです。このような地味男といると疲れるから追放しましょう。はーい決定ですわ」


 ひ、酷い。全然聞く耳を持ってくれない。あと一人メンバーはいるのだけれど、なにか用事があるとかで今日はここにはいなかった。彼は盗賊だから、きっとどこかで情報収集でもしてるんじゃないかな。ちなみに盗賊でありながら戦士でもある。


「あーあ。マジでお前なんかスカウトするんじゃなかったわ。魔法学園で成績優秀だったってホントか? いざ仲間にしてみれば使えねえし」

「ふふ。試験の点数だけは良かった、みたいなものでしょう。学園なんて所詮お遊びでしょうし、舐め腐った人間の末路ですわ。死ねばいいのに」


 僕は十五歳の頃魔法学園を卒業し、冒険者ギルドに登録してすぐにジャック達と出会った。あの時は親切だったのに、一年経ったら酷い言葉を沢山かけられるようになってしまった。


 この後もキツい責め苦の数々を受けてしまい、言い返す気力すらなくなった。


「け! 普通は迷惑かけてすみませんくらい言うけどな。まぁいいや、とっとと消えろや。この田舎もん魔法使いが!」


 ◇


 思えばしんどい一年だった気がする。


 地属性魔法で何とかサポートを続けていたのだけれど、どこまで頑張ってもそれが当たり前だという評価しかされず、何かあればジャックや仲間達に難癖をつけられ、我慢することを余儀なくされる。


 僕はボロい小屋みたいな家に帰る途中、そんな毎日を思い返していた。


 出会った当初、ジャック達は冒険者ランクDという、下から二番目のランクに位置するパーティだった。いつかはBランクやAランク、そしてSランクから先に上がってやると息巻いていたっけ。


 たしかに、一年という尋常ではない早さでSランクに到達したことは誇るべきことだ。こんなに早い出世は世界でも珍しいと言われていた。


 でも何かが狂い始めている。ジャック達は鼻が高くなってしまったようで、このままでいくと手痛い目に遭ってもおかしくない。


 僕はといえば、まあそこまで変わっているつもりはなかった。というか、自分の魔法に全然納得がいってないので、奢りや昂りなんて持っている場合じゃなかったし。


 家に帰った後はふて寝するしかなかった。追放されたんだから、明日からはフリーというわけだ。でも急に自由になってしまうと、どうしていいか分からなくなるんだよね。


 次の日、流石にジャック達の行きつけである冒険者ギルドに向かうのは気が引けたので、違うギルドに足を踏み入れようとしたができなかった。新たな仲間を見つけたとして、また追放されたらどうしようと不安ばかりが頭を過ぎる。


 また次の日。意を決してもう一度昨日のギルドへ向かおうとしたが、途中で足が向かなくなってしまう。体が拒否しているみたいで呆然とした。なんで?


 幸いにして貯金はあるが、だからと言っていつまでも仕事をしないわけにはいかない。冒険者以外の仕事もあるけれど、僕にとってこの仕事こそが天職だと考えている。


 どうしてそこまでこだわるのか。理由は三つあった。


 一つは魔法というものが大好きなこと。もう一つは冒険者がハイリスク・ハイリターンの刺激的、かつ自由な仕事であるということ。最後の一つは、魔族や魔物と好きに戦えることにある。


 僕が小さい頃、住んでいた故郷は突然魔物達に襲われた。焼き払われて多くの村民が生き別れになった。ずっと長閑に暮らしていけると思っていた少年の常識は崩れ去った。あの時は怖かったけれど、後々になって激しい怒りが心に住み着いた。


 怒りの矛先はもちろん魔物達だったけど、最も腹が立ったのは無力な自分自身だ。不幸中の幸いにして家族は無事だったし、また違う田舎が新しい故郷になったのだけれど。


 僕はまだ全然満足していない。もっと魔法を知りたい。もっと富が欲しい。もっと魔物達を討伐して、世の中を少しでも平和にしたい。


 つまるところ、僕は魔法と冒険が大好きだった。


 しかし、現実にはいくつも問題が転がってる。これから一体どうすればいいのかな。


 追放された事実はすぐにこの王都アルスター中に広がるかもしれない。彼らはみんな噂好きであり、また同業者の情報を集めるのが好きなのだ。そうなると、ここで僕とパーティを組んでくれる人も少なくなるかも。


「行き詰まったなぁ。こんな時はどうすればいいんだろう……」


 そういえば学園生活でも、こうして悩みまくっていた時期があったっけ。あの時僕には相談を聞いてくれる仲間がいた。彼らは決まって遊ぶことを僕に勧めてきたし、わりと強引に連れ出されたりもしたっけ。


 ふと、ぼんやりとベッドで天井を眺めている時、一つの考えが浮かぶ。学生時代と同じようにすればいいんじゃないだろうか。


 つまり一旦は仕事のことを忘れて、羽を広げてみるということ。


 ずっと必死になって努力するより、一度思いっきり休んだほうが成功することもある。今は仕事に後ろ向きになってしまったけれど、しばらくしたらやる気を取り戻すかもしれない。


 うん、まずは遊びにでも行ってみるか。時間なら十分にある。とりあえず旅行なんてどうだろう。


 そんなことをぼんやり考えていると、僕はいつの間にか夢の中に引き込まれていった。

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