形勢逆転 幼馴染み巫女が戻ってきた、が

(うん? なんじゃ、この奥底から湧き上がるものは)


 剣司の精気を吸い込んでいると自分の中で何かが急激に膨れ上がるような感覚が兎姫の中で湧き上がってくる。


(ま、拙い、妾の意識を押し潰そうとしている)


 身体の内側から膨らんでくる存在に兎姫は対応しようと、更に剣司の精気を吸い込む。


(な、何故じゃ)


 だが、精気を吸い込めば吸い込む程、その存在は大きくなる。


(ま、まさか、吸い込んだ精気がこの身体の主に流れ込んでおるのか)


 兎姫は自分の身体の中で膨らむ存在を抑え込もうとする。

 だが無理だった。


「がはっ」


 耐えられず、兎姫は身体を起こして両腕で抱きしめ顔に苦悶の表情を浮かべて苦しみ始める。


「ど、どうした」


 苦しみだした兎姫に剣司は思わず声をかける。


「あああっっ」

「うわっ」


 次の瞬間、兎姫の身体が突如光り出す。

 身体を包んでいた衣装が変形し、舞の退魔巫女服姿になる。

 しかし、力が入らないのか舞の身体が倒れ込んで来て剣司は受け止めた。


「舞、舞っ!」


 倒れ込んだ舞に剣司は声をかける。


「大丈夫よ剣司」


 目を少し開けた舞は剣司を不安にさせないよう笑みを浮かべて答えた。

 いつもの控えめな口調、少し気弱そうに見えるが穏やかな目元と眉が作る温かい笑顔。

 兎姫ではなく、舞であることに剣司は安堵した。


「何があったんだ」


 先ほどまで兎姫に身体を奪われていたのにどうして戻ったのか、剣司は不思議だった。


「剣司のおかげよ。剣司の精気が私の魂に流れて力を取り戻し、兎姫の魂を封印することが出来たの」

「そうか」


 舞が再び戻ってきたことに剣司は安堵した。


「でも、どうして?」


 兎姫に奪われていた精気が何故、舞に入っていったのか剣司は不思議だった。


「剣司が私の事を思ってくれたでしょう。それで私の方に精気が流れ込んできたみたい」

「そ、そう」


 顔を赤くして恥ずかしそうに舞は言う。

 確かにあのとき、舞が消えてしまうと思って舞のことを強く思っていた。

 それが、舞に伝わったことが恥ずかしい。助かったから良かったのだが、改めて言われると安堵より恥ずかしさの方が上回り、目を合わせられない。


「じゃあ、兎姫はいなくなったのか?」

「うううん。私の中に封印されている」


 小さく首を振って舞は否定した。


「今は眠っているけど、またいずれ封印の力が弱まったら、私の力が弱まったら私を乗っ取り、身体を食い破ろうとするわ」

「そんな」


 危機が去っていないことに剣司は不安になった。

 また兎姫が舞の身体を乗っ取り暴れる事に、舞の身体を食い破ろうとするのを許すわけにはいかない。


「どうしたら良いんだ。方法はある?」


 舞を守りたくて剣司は尋ねた。


「封印の力を補強すれば良いんだけど……」

「だけど?」


 舞は再び視線を逸らすと、恥ずかしそうに言った。


「私の精気で抑えれば良いんだけど……足りないみたいで……」


 弱々しく恥ずかしいのか顔を赤らめて舞は言った。


「……剣司から……また……貰えないかなって」


 伏せ目がちに上目遣いで剣司の口元を見ながら舞は頼んできた。

 恥ずかしいのか、身体をモジモジさせながら向けてくる舞の視線に剣司はドキドキする。


「あ、ああ、いいよ」


 先ほどのキスを思い出して真っ赤になりながら、剣司は承諾した。

 そして、恐る恐る、二人は顔を近づけ、口づけをした。


「うっ」


 触れた瞬間、舞は身体をビクンッと震えさせた。

 兎姫に乗っ取られている時とは違い、舞は照れているのか、おっかなびっくりして舌の動きが戸惑っているようだ。

 だが精気を送り込むと気持ちよいのか、落ち着き舞は剣司に身を預ける。


「ぷはっ」


 満足した幸せそうな顔をしているが、キスしたことを思い出して、舞は顔を真っ赤にした。


「ご、ごめんなさい」


 恥ずかしがって顔をうつむけた。

 その姿が剣司は好きだ、こんな幼馴染みの許嫁の仕草が好きなのだ。

 そして、もっとしたいという欲望が、いたずら心が剣司に生まれる。


「もっとしようか」

「え」


舞は目を白黒させる。


「い、いえ、もう十分だし、剣司も怪我をして大変でしょう、そ、そうだ治癒しないと」


 更に顔を真っ赤にして早口で言い治癒の術式をかける。


「精気を吸いとられ続けると動けなくなるわよ。昔、精気を使い果たして倒れたでしょう」


 心配そうに舞は言う。

 精気を使いすぎて底を突くと失神、最悪死亡してしまう。

 鍛錬の時に、早く強くなろうと剣司は精気を使いすぎて、失神したことが度々あり、舞を心配させた。


「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないわよ」


 明るく言う剣司に、舞は眉を寄せ心配する表情でいう。


「いや平気だって」

「どうしてよ」

「舞がキスしてくれるならむしろ精気が湧いてくる」

「!」


 剣司の言葉に舞の顔は紅くなる。


「も、もお! からかわないでよ!」

「本当だよ。あのバニーガール姿を思い出したら凄く元気になる」

「……え?」


 剣司の言葉に舞は口を開けたまま固まった。


「あの退魔巫女服姿も良いんだけど、やっぱりあのエロいバニーガール姿、体のラインが絞り出されているあの姿は最高だ」


 兎姫にキスされたときのことを思い出しながら剣司が嬉々として語る。

 乗っ取られていたとはいえ、好きな幼馴染みが好きなキャラの衣装で迫り、抱き付き、キスしてくれたのだ。

 あの時の事を記憶と身体が忘れることなど出来ない。

 楽しそうな剣司を見て、舞は表情が固まったが、徐々に表情を険しくして行く。


「キスされる度にあのバニーガール姿を思い出すよ。出来たら精気であの姿に変身してクスをして欲しいんだけど」

「しないわよ!」

「ごはっ!」


 舞は怒って剣司に平手打ちをした。

 精気で身体強化された平手打ちの威力は凄まじく、剣司は吹き飛ばされた。

 ちなみに起源を悪くした舞は幾ら頼んでも治癒の術式は使ってくれず、剣司は暫く放置された。




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