第2週 グリーンチャイルド事件

 むかしむかし、みどりのゆびを授かった一族がいました。

 みどりのゆびとは、園芸の才能のことです。むかしむかし、その更にむかしには、不毛の大地に草花を生やしたそうです。

 みどりのゆびはかみさまのゆび。みどりの一族は、天使たちと、人間たちの間に生まれたネフィリムの1つでした。

 かみさまは、ネフィリムは誰一人として、方舟には乗せなかったけれど。

 その後、みどりの一族をもう一度、地上に与えられました。

 みどりの一族は、初めて降り立った土地を耕して、オリーブを育てました。こうして、みどりの一族は、また地上で生きることになりました。

 みどりのゆびはかみさまのゆび。

 かみさまのちからを、かみさま以外が使ってはいけません。

 魔術師、妖術師、占い師……。みどりの一族は、職業を偽って隠れたけれど、どうしても見つかってしまいます。

 だって、とっても素敵なお花が咲くからです。どんな園芸師も叶わない素敵なお花が咲くからです。

 おいしそうなお花の蜜を求めて、沢山のミツバチがやってきたけれど。

 同じくらい、魔女狩りの魔手もやってきました。

 みどりのゆびはかみさまのゆび。

 かみさま以外の力を、使ってはいけません。

 教会や僧侶たちは、みどりの一族を狩りました。

 園芸師や華道家も、みどりの一族を狩りました。

 みどりのゆびはかみさまのゆび。

 かみさまに祝福された一族に与えられた、特別なチカラ。

 薬草を沢山もらっていた魔女たちは集まって、みどりの一族を異世界に逃がすことにしました。

 みどりの一族は、感謝を言った後、魔女たちに言いました。

 「ありがとう、ありがとう、魔女たちよ。

  でも私たちは、この世界を愛している。

  だから教えておくれ、どうかみらいで。

  私達も生きていける世界になったなら。

  嵐と鐘の音を使って、教えておくれよ。

  そうしたら、子供をふたり、そちらに。

  男女の子供を送って、われわれ一族は。

  愛しい世界に再び花を咲かせましょう。」

 魔女たちは頷いて、彼らを異世界のセントマーチンズランドに送りました。

 それから、1000年近く経ちました。

 イングランドのサフォーク郡の魔女たちは、異世界のみどりの一族との約束を果たしました。

「みどりの民よ、みどりの民よ、聞いておくれ。

 にんげん達は、かわりました、かわりました。

 あなたがたを、怖がるひとは、もういません。

 鐘の音よ嵐よ、異世界までも、届いておくれ。

 男女のこども、可愛いこども、おいでなさい。」

 そうして、黄昏と暁の世界から、緑しかない子供が2人、ウールピット村にやってきました。

 人々は、全身が緑色で、異世界の服を着た2人に戸惑い、神父様に相談しました。

「ローマンさま、ローマンさま。あれは一体何でしょうか。悪魔でしょうか。磔にして燃やすべきでしょうか」

「見てみないことには分からない連れてきなさい」

 子供達は教会に連れてこられました。神父様は、彼らにもわかる言葉で問いかけました。

「ようこそウールピットへ。君たち二人は、どこから来たのかな」

「セントマーチンズランドです」

「聖マルティノス様の治める国です」

「私たちは『みどりの一族』です」

「僕達は、かみさまの作ったこの世界を愛しています。またこの世界を、お花でいっぱいにして、かみさまのお役に立ちたくて、やってきました」

「そうか、わかった。じゃあ、君たちのかみさまの名前は何かな」

 すると、二人は答えました。

LORDです」

 なるほど、と、神父様は理解して、村人たちに言いました。

「この子達は神の御名を知っていて、恐れもなく答えることが出来る。悪魔は、まず教会を罵るものだ。だからこの子達は、悪魔ではない」

「では、洗礼はどうしましょうか」

 そこで神父様は、もう一度二人に聞きました。

「ここは、イングランドという国だ。ここでは、俺が洗礼の儀式をしないと生きていけない。儀式をしてもいいかな」

「貴方はLORDの使い。貴方の言葉はLORDの御心。喜んで、こちら側の洗礼も受けましょう」

 そうして二人は、洗礼を受けました。

 緑の肌のまま、二人は涙を流していました。

 緑の瞳から流れる涙も涙色で、開いた口の中も緑色。村人たちは怖がったけれど、神父さまが、よしよしと二人を抱きしめたので、安心しました。そして神父さまは、二人の修道士に命じて、二人の記録を書かせました。

 男の子は衰弱して死んでしまったけれど、女の子はアグネス・バリーと名付けられて、ウールピット村で幸せに暮らしましたとさ。

 たった1人のみどりの一族から生まれた、人間とのあいの子。みどりの一族の血はどんなに薄くなっても、かみさまのチカラ。

 あなたのそばにも、きっと………。

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