第22話 姫様御乱心

 レオが使った不思議な剣術の話を聞いたシンがポツリと漏らしたのです。

 「あれは居合いだな」と。

 シンは武道に精通している訳ではないので詳しいことまでは分からなかったのですけど、カタナと呼ばれる片刃の剣を用いて、行うということは分かったのですわ。

 それだけの情報でも十分ですわ!


「えっと……これでもありませんわ。これかしら? 違いますわね。これ?」

「ねえ。リーナ。もう少し、片付けした方がいいと思うよ」

「今度、しますわ。今はレオにカッターナを探すのが先ですわ」

「それは片付けしない人の言い訳だよ」


 亜空間物入れに手を突っ込み、探し物をしているわたしをレオが心配して、言ってくれるのは分かりますわ。

 適当に物を放り込む癖が災いして、色々な物で溢れ返ってますの。

 どうにかしないといけないのですけど、それはそれですわ!


「ありましたわ。これをレオにあげますわ」

「何で僕に?」

「ちゃんとした武器を持っておかないと困るでしょう?」


 朱塗りの鞘に納められたやや湾曲した刀身を持つカタナらしき剣をようやく、見つけることが出来ましたの。

 確か、東の方の国で鍛造された特殊な剣ですわ。

 特徴はシンが言っていたカタナと似ているのでレオには馴染むと思うのですけど。


「でも、怖いんだ……」

「怖い? どうしてですの?」


 おかしいですわね。

 折角、見つかったのにレオはあまり、嬉しくないみたい。


「僕は怖いんだ。誰も傷つけたくないんだ」


 そういうことでしたの。

 レオが石の巨人ルングニルと戦った時に発揮した不思議な力。

 その秘められた破壊力は相当な物であったと聞いてますわ。

 誰よりも優しくて、繊細ですわね。

 だから、傷つけることを恐れているのね。


「レオは力を恐れてますのね?」

「そうかな。そうかもしれない」

「でも、あなたの力は大切なものを守ったのではなくて? それは間違ったことではないわ」

「だけど、怖いよ……」


 レオの告白を聞いて、わたしの心に邪なものがなかったのか?

 そう問われるとちょっと自信がありませんわ。

 好機と捉えたわたしは悪いのかしら?


 わたしはまだ、子供ですもの。

 時に我儘になっても……え? 勝手な時だけ、子供になっている?

 いけませんの?


「力は奪うものではなく、守る為のもの。レオの力はあなたが大切に思うものを守る為に振るえば、いい。そう考えてはダメかしら?」

「う、うん」

「だから、これを使ってくださいな」

「分かった」


 レオは迷いながらもカタナを手に取ることを決めてくれましたわ。

 でも、彼は力の使い方を間違えたりはしないと思いますの。

 あんなに真っ直ぐで曇りの無いきれいな目をしているんですもの。


「付けてあげますわ」

「い、いいよ。自分で出来るよ」

「いいから、じっとしてくださいな。遠慮しないでくださいな」

「い、いや。本当、大丈夫だから」


 レオは体を近付けただけで頬を赤らめて、口では拒否しているのにまんざらではなさそうですわ。

 そんな彼を揶揄うのが楽しいのですけど!

 同年代……それも年下の男の子と接する機会がなかったので今までにない感情を感じていますわ。


「ひー-めー--さー--まー--!!」

「ひゃう」


 タイミング良く? 悪く? なのかしら。

 また、スカージが現れましたわ。

 もしかして、タイミングを狙っていたのではなくて?

 もうちょっと、レオと一緒にいたかったのに……。


「またね。リーナ」

「ご、ごきげんよう……」


 首根っこを掴まれて、引き摺られるなんて、わたしの扱いが雑すぎではありませんの?

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