第21話 勇者レオとリーナ姫

 目を三角にしたドローレスの説教が始まり、小一時間ほどしてから、解放されましたの。

 巻き添えを食う形になったレオには申し訳ないことをしましたわ。

 ごめんなさい。


 なんて、微塵も思ってませんわ~。

 逆にドローレスの説教という共通敵が出来たことで彼と仲良くなれた気がしますの。

 ドローレスはまさか、そこまで計算して!?

 違いますわね。

 彼女はどちらかと言えば、脳まで鍛えてしまった人ですもの。

 単純にわたしがルールを破ったことがいけないというだけ、ですわ。




 どうにか説教も終わり、解放されたのでレオに『合格』であることを伝えましたの。

 これから、本番の儀式に向けて、彼ともっと交流しないといけませんもの。

 えぇ? もう愛称で呼んでいるのが不思議かしら?

 まず、愛称で呼んでから、やや多めにボディタッチをすれば、大丈夫と聞きましたわ。

 情報の発信源はどこから……が気になりますのね?

 シンですわ! 何か、問題ありまして?


「これはどうですの?」

「でも、そういうのは悪いから、いいよ……です。リリス……姫」


 武器が無いレオの為に亜空間に通じる物入れから、色々な武器を取り出しているのですけど、つれない態度ですわ。


「また、姫と呼んだでしょう? 今度、呼んだら、あなたのことをレオニード様と呼びますわ。いいのかしら?」

「それは嫌だな」


 うんうんと頷いている様子から、レオは素直で真っ直ぐないい子だというのが分かりますわ。

 彼は『名も無き島』で拾われた捨て子だと聞いてますから、きっといい方に育てられたのでしょう。


「そうでしょう。ですから、姫と呼ばないで欲しいですわ」

「でも、言いにくいし……」


 リリスが呼びにくいというのはさすがに初耳ですわね…。

 お母様からは『リーちゃん』と外で呼ばれると恥ずかしい愛称で呼ばれてますの。

 さすがにそれはないですから……そうですわ。


「ではこうしましょう。レオにだけ、わたしの本当の名前を教えてあげますわ」

「本当の名前? どういうこと?」

「リリアナなの」

「リリアナ……そうだ!」


 自分でも名乗らなくなって、久しいわたしの本当の名。

 お母様が『リーちゃん』と呼ぶのもわたしのことを慮ってのことなのでしょう。

 リーなら、リリアナとリリスのどちらをも呼んでいることになりますもの。

 さすがはお母様ですわ!

 本当にそこまで、考えているのかは分かりませんけど。


「言いにくいから、リーナでもいいかな?」


 呼ばれたことのない名ですわ。

 でも、レオに呼ばれると悪い気がしませんの。

 不思議ですわ。


「レオにだけ、特別に許しますわ」


 そう言ってから、二人で笑い合っているとずっと前から知っているような不思議な感覚を覚えましたの。

 それに今までに一度も呼ばれたことのない愛称のはずなのになぜか、しっくりと聞こえましてよ。

 なぜなのかしら?


「ひー-めー--さー--まー--!」

「ひっ!?」


 大地の底から、聞こえてくるような迫力のある低い声に思わず、カラクリ人形のようにぎこちない動きで振り返るとそこには恐ろしい顔をしたスカージが……。

 その後、レオともっと近付けるように食事会を計画していたのですけど、なくなったことは言うまでもありませんわ。

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