第26話 勉強会(2♥)

 その男とは昨日初めて会った。

 だが、既に心は男が内に入り込むことを許し、自分も積極的に関りにいった。

 それは、女にとって男が「価値」があると判断したからだ。

 世界的にも稀有な存在となり、将来的にも様々な者たちからの争奪戦が予期されるその男を早めに……


(あぁ、シィーさんってやっぱり童顔でかわいらしいお顔をしていますわ。それにあの唇もぷるんと柔らかそうで……あ、あの唇が昨日はチュッチュとワタクシの頬やおデコは……あのホッペにワタクシも……この年頃にもなれば、不衛生に髭すら生やしている男子もいるというのに、シィーさんはお顔も心も瞳も少年のように……)


 顔を近づければ近づけるほど吸い寄せられていく……



(い、いけませんわ、ワタクシったら……自分を見失ってはなりませんわ。そう、ワタクシがシィーさんと関わるのは、将来有望と思われるシィーさんに唾をつける……そう唾を――――)


「―――であるからして、これを証明せよ……うむ、読んだのだが……やはり問題文の内容すら理解できないのだ……」


(ッ!? な、なんというお顔をしますの!? まるで迷子になった子供のように……あぁんもう、可愛いですわねぇ……そんな困った顔をしなくても、大丈夫……ですわぁ)


「フォルト?」


「(*´з`)♥」



 そして、気づけばフォルトは顔を寄せ、シィーリアスの頬にキスをしていた。


「え……?」

「ふぁ!? え、ちょ、フォルト姫!」

「ふぁい? ……は!?」


 突然の頬へのキス。

 キョトンとするシィーリアス。

 思わず立ち上がるクルセイナ。

 ハッとするフォルト。


「はうわ!? わ、ワタクシとしたことが、シ、シィーさん……い、今のは、え、えッと……」


 流石に自らいきなり相手の頬にキスをしてしまうというありえぬ粗相にフォルトも慌てふためく。

 だが……


「ん~……うーむ…………ちゅっ」

「ッ!?」

「ふぁが!? シィー殿!?」


 よく分からないが、とりあえずシィーリアスもフォルトの頬にキスをお返しした。


「ひょ、ふよわああ、シィー、シー、シィーさん?!」

「え、いや……流れは分からなかったが……とりあえずお返しをした方がいいと思ったのだが……」

「い、いや、シィー殿も……いや、もう、お二人は何をしている!?」


 された方も、見ていた方も、フォルトもクルセイナも顔が真っ赤に染まって頭から湯気が出る。


「姫様! いま、なにか――――」

「なんでもありませんわ! なんでもありませんので、大丈夫なのですわ!」

「は……はぁ……」


 流石に騒ぎを聞きつけてメイドのヲナホーがリビングに入ろうとするが、慌ててそれを追い返すフォルト。

 だが、実際にはまったく大丈夫な状況ではないのだが、とにかく今この場に誰かを入れるのだけはまずい状況だった。


「と、とにかく、シィーさん……その……はしたない真似をして申し訳ありませんでしたわ……」


 とりあえず、粗相をしてしまったのは自分から先であり、流石にそれを恥じて謝罪するフォルト。

 だが、シィーリアスは……


「はしたないって……キスのことだろうか?」

「え、ええ……」

「なら、なぜそんなことを言う! 僕たちは友達なのだ。親愛のキスぐらいいつでもしていいに決まっているではないか!」

「……ふぇ?」


 ズレている。

 だからこそ、フォルトの粗相すら、別に変なことだとは特に思わなかった。


「ちょ、シィー殿も、な、何を言って……」

「クルセイナまで、何がおかしいというのだ! 友達にキスをするのがそんなにおかしいだろうか!? 僕はこれまで―――」


 何より、シィーリアスがフォルトの粗相を「おかしい」と思わないのは……



――シィ~く~ん♥ いま、お姉ちゃんと目が合っちゃったからチュウ~♥


――シィ~♥ なんかやることないからチュウ~♥



 と、それこそ仲間であるミリアムとオルガスは日常的に四六時中唐突にシィーリアスを抱きしめてキス連射するのである。

 ゆえに、頬にキスをいきなりされたところで、動じるシィーリアスではなかった。

 

「だから何もおかしいことではない。むしろ友達なのだから当たり前のこと」

「そ、そう……なのですの? つ、つまり、別にワタクシがこれ以上に、ちゅ、ちゅ、チュウチュウしても、シィーさん的にはおかしくないどころか、嫌でもないと?」

「え? 嫌がる理由がどこにあるというのだ……? もっとするというのであれば、しようではないか!」


 それどころか、戸惑うフォルトにシィーリアスは両手を広げて……


「さぁ、ハグをしてキスをしようではないか!」

「シィーさんッ!?」

「い、いやいやいやいや! おかしい! おかしいぞ、シィー殿! あぁ、フォルト姫まで……」


 自分の粗相に引くわけでも怒るわけでもなく「もっと来い」というシィーリアス。

 そうなっては、フォルトの理性も壊れてしまう。


(お、おかしくない……そ、そうなのですわ! これもカルチャーの違いというアレで、シィーさん的にはおかしくない普通のことで、むしろドンドン来いというシィーさんに遠慮をするというのが失礼であって、むしろ、むしろ~~~~♥)


 そして、もはやそれに抗う心はフォルトにはもうなかった。


「あぁ~ん♥ シィ~~さ~~ん♥ えい♥」

「うむ!」


 シィーリアスの胸に飛び込んでハグをするフォルト。

 童顔でありながらもその肉体はどこまでも逞しいシィーリアスに包まれながら……



「ん~~♥ ≪*´ε`*≫チュッチュ♥」


「≪^ε^≫-☆Chu!!」


 

 昨日、制服を買い直しに行ったときのように、フォルトとシィーリアスは抱き合ってチュッチュ、チュッチュとイチャイチャした。


「んな、あ、な、なぁああ!?」


 それをまるで蚊帳の外のように見せつけられているクルセイナ。

 その様子に気づいたフォルトはどこか勝ち誇ったように……


「おほほほ、クルセイナさんも混ざりますぅ? ワタクシたちの友情のハグとキッスに」

「ッ!? な、なにを、は、はれんちな!?」


 真っ赤になって拒否しようとするクルセイナ。

 だが……


「あ、うむ、そうであったな。どうせなら、皆で友情を確かめ合おう! そして、クルセイナには……」


「へ……?」



 クルセイナを放置していることに気づいたシィーリアスは突如スリッパを脱いで……



「君は頬や額ではなく、足が良いとのことだったが……君も僕の足を好きにしてくれて構わんぞ?」


「ふぇ!? ……………ごくり」



 呆けたクルセイナが、生唾をゴクリと飲み込んだ。




――あとがき――

ごくり、じゃねえよ!

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