第25話 勉強会(1)

 企画された、放課後の勉強会。

 それを行う場所は……


「さぁ、ようこそ、シィーさん。ここがワタクシの屋敷ですわ」


 帝都の中でも最上級の高級住宅地。

 まさに選ばれた特権階級の者しか住むことが許されないエリア。

 巨大で豪華絢爛な屋敷が多く立ち並ぶ中に、フォルトの屋敷があった。


「す、すごい……大きな家に君は住んでいるのだな…」

「そうですの? まぁ、ワタクシの家というより部屋ですけどもね……ちなみに、少し離れた所にクルセイナさんの屋敷もありますわ」


 巨大な屋敷を「家」ではなく「部屋」と口にするフォルト。それだけ自分とは身分が大きく違うのだとシィーリアスも実感。

 すると、その傍らで……


「本来であればフォルト姫は宮殿にお部屋を用意したのですが……このエリアの警護は厳重ではありますが、それでもやはり宮殿の方が……」


 そう告げるのは、シィーリアス同様に連れ出されていたクルセイナだった。


「あら~、他国の宮殿の中で何年も住むだなんて息苦しくなるものですわ~。外出も色々とめんどくさそうですし、門限や監視もめんどくさそうですし、ワタクシはもっと自由でありたいのですわ」

「で、ですからそれも姫様の安全のためにと……屋敷にも最低限の女給だけを雇われて……」

「だ~か~ら、クルセイナさんはダメダメなのですわ~。ねえ、シィーさん。そういう特別扱いは嫌ですわよね~♪ 同じ生徒同士だというのに」

「なるほど。宮殿に居た方が明らかに楽だと思うが、それをせずにと……良い心がけだと思うぞ、フォルト。君は姫だがしっかりものだ!」

「おーっほっほっほ、流石はシィーさんですわ~!」


 シィーリアスに同意を求めるように笑うフォルト。その言葉にシィーリアスは感銘を受けたように頷き、クルセイナは余計に頭を抱えた。



「とはいえ……その……言い方は悪いかもしれませんが、友人になったとはいえ、姫様が屋敷に、その……お、男を連れ込むというのは……その……」


「あ~ら、ワタクシはぜんっぜん気にしませんわ~。それに、二人きりならまだしもあなたもいらっしゃるのだからよろしいと思いません? ましてや泊りでもなく、同じ学校に通う友人との勉強会ではありませんの~」


「フォルト……君は僕のために……君は何という心優しき人なんだ! 僕は今、猛烈に感激している!」



 そう、勉強会はフォルトの屋敷で行われることになったのだ。

 何もやましいことはないという証明のためにクルセイナも同席しているが、もちろんそこにフォルトの打算があり、それをクルセイナも見抜いていた。



(おほほほ、これでシィーさんはワタクシの家に来たということで……一度来たなら二度も三度も同じ……やがてそれが自然になり……シィーさんの信頼を強く勝ち取れたと確信出来たら、既成事実を作らないとですわ~♥ っと、ワタクシったら、ハ・シ・タ・ナ・イですわ~♥ ま、ず、は、ほっぺや額のキスよりステップアップで……その後は、ただのハグではなく、寝室でのハグを……おほほほほ♥)


(フォルト姫……しまりのない顔をされて……やはり、シィー殿は私がちゃんと守らないとな……って、違う違う! 守るのはフォルト姫の方をだ! シィー殿がまた無自覚にうらやまけしからんスキンシップをするかもしれんのだ! その時は私が体を張って……いや、私よりシィー殿の方が圧倒的に強いのだから……そ、その時は体を張って、足でも舐めてでも止めるのだ……って、違う、あ、あれ?)



 ただし、二人の打算は煩悩にまみれていたのだった。








「姫様。紅茶をお持ちいたしました」

「ええ、ご苦労様、ヲナホー。下がってよろしいですわ」

「はい」


 屋敷の居間には大きな絵画や彫像などの美術品が並び、豪華なソファーやテーブルや家具が並び、パーティーでも開けそうなほど広い空間だった。

 屋敷に滞在する若く美しく、それでいて少し大人びて落ち着いた雰囲気を出す赤毛の女給のヲナホーは淡々とした様子で、急な来客となったシィーリアスとクルセイナたちを迎え入れた。

 本来ならば見ず知らずの身元も分からぬ男がいきなり姫の屋敷に訪れるなどあってはならないことなのだが、そこはフォルトの言葉と、同じ学生であることと、クルセイナも同席していることもあるため、ヲナホーも信用してその場を後にした。


「うーむ、すごく広いし、色々なものが置いてあるのだな、君の部屋は。すごい絵とかもあるし」

「ふふふ、シィーさんは芸術に興味がありまして?」

「いや、あまり詳しくない……が、金に物を言わせて多くの美術品を収集していた金持ちの家などに行ったことはあるが、酷く下品に感じた……だけど、君の部屋はとても……うん、ごっちゃりしてないのに優雅な感じがする」

「あらあら、お褒め戴き嬉しいですわ。部屋だけでなく、ヲナホーの入れた紅茶も美味でしてよ」

「お、おぉ~……すごい……とても上品な味がする……」


 目を輝かせてキョロキョロ子供の用に部屋を見渡すシィーリアスに微笑むフォルト。



「さて、雑談はこれまでにして、早速始めさせていただきますわ!」


「うむ、僕の頭が悪くて迷惑をかけるが、よろしく頼む」


「ご安心を。シィーさんは単純に基本的なやり方が分かっていないだけで、別に頭がちょっと残念とかそういうことではないと思いますわ。そのため、まずは今日の小テストの問題の意味と解き方を教えて差し上げますわ」


「おお、それはありがたい! 自分が理解できなかったことを早速学べるのは実にありがたい!」


「うふふふ、ではシィーさん。順に説明していきますので、まずワタクシのお隣にいらしてください」


「うむ!」


 

 リビングの長テーブル。隣同士に座るシィーリアスとフォルト。その正面にはクルセイナが座る。

 

(ふむ……一見派手に振舞って大雑把に見えて、こういう時には丁寧さも感じられる……フォルト姫……やはり評判以上の御方のようだ)


 正面に座るクルセイナは何かあれば口出しということだが、そもそもフォルトの方が点数が良かっただけに、自分が教えることがあるかというのは正直疑問だったが、それでも「姫の屋敷に男子生徒と二人で勉強」というのは、噂になればあらぬ誤解を招く恐れもあることと、これならばフォルトとシィーリアスを同時に観察できることもあり、クルセイナは静かに見守った。

 だが……


「で、まずシィーさん。こちらの文章なのですけど……」

「うむ」

「っ、あ……」

「ん? どうした、フォルト?」

「……い、いえ、続けますわ」


 教える以上、ただ隣同士で座るわけではなく、互いの椅子と椅子の距離は近く、互いの肩と肩がつくぐらい、さらには息がかかるぐらいの至近距離。


(……ぬ?)

 

 フォルトがそのことに一瞬反応したことを、クルセイナは見逃さずに眉をひそめた。




――あとがき――

勉強できるわけがない。


さて、いつもお世話になっております。

本作は、「第4回ドラゴンノベルス小説コンテスト」に登録しております。

フォローと★で称えるにて評価していただけたら嬉しいです。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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